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第三章 あやかしは清涼殿を呪いたい
では……良いのだな?
しおりを挟むやはり、パクチー飴は失敗か。
鷹子は吉房の話に、うんうん、と適当に頷きながら、全然数の減らない緑の飴を見つめる。
パクチーが使えれば、炭酸水に緑色がつけられるかも、という思いもちょっとあって作ってみたのだが、大不評か。
……パクチーでコーラも作れるのにな。
とか言いながら、私もパクチー苦手なんだが。
そもそも、飴ならともかく、炭酸水にパクチー粉混ぜても透明なキラキラ感でないだろうしな。
うーん、と鷹子が悩んでいると、
「そうか、よいか」
とふいに吉房が喜んだ。
えっ? はっ? と訊き返す。
今、自分はなにかを了承してしまったようだ。
まずい、なにかなっ、と鷹子は焦ったが、吉房は、いそいそと楽器を運ばせるよう、命じはじめる。
鷹子は奏法が複雑で、今では弾ける者の少ない七絃の琴の琴が弾けるので。
鷹子がそれを弾き、吉房が笛を吹くというのだ。
なんだ、そんなことか、と鷹子はホッとした。
吉房は巻き上げさせた御簾から夜の庭を眺め上機嫌だ。
「いい風が吹いておるな」
今にもあやかしが現れそうな生ぬるい風ですけどね。
「我ら夫婦の合奏が風に乗って、何処までも流れていくであろう」
なんかちょっと可愛らしいな、と鷹子は笑ってしまう。
そんなことでこんなに喜ぶなんてと思ったのだ。
だが、風に乗って何処までも流れていくという言葉に、どきりとしてもいた。
つまり、失敗しても、何処までも流れていくということだ。
まあ、妃同士で争っているわけでもない。
それで失敗しても嘲笑してくるものが居るわけでも……
居たな。
左大臣が。
うーむ。
子どもの喧嘩に親が出てくる、みたいな人だが。
この時代はしょうがないよな。
娘の出世はおのれの出世にも関わることだし。
そんなことを思いながら、吉房と二人で演奏する。
すると、月の光が強くなった気がした。
強い風にのって雲が流れていって晴れたのか。
あるいは、帝か頭の上で合奏を聴きながらご機嫌な神様の御威光か。
そのとき、鷹子は見た。
月に照らされ、明るくなった庭に立つ男を――。
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