あやかし斎王  ~斎宮女御はお飾りの妃となって、おいしいものを食べて暮らしたい~

菱沼あゆ

文字の大きさ
90 / 110
第五章 あやかしビールと簡易ふわふわケーキ

ヤバイ、ひねりがない……

しおりを挟む
 
「なにが籠の鳥だ。
 籠の中から命じては、周りを自由に動かしているではないか」

 夜。
 来るように言われて尋ねた清涼殿で、鷹子は吉房にそんなことを言われる。

「その、びーる、というのは、酒の一種なのか」

 それはちょっと呑んでみたいな、と吉房は言った。

「帝、ビールと聞いて、なにか思い浮かぶことはありますか?」
と鷹子は訊いてみた。

「枝豆とか、野球とか、扇風機とか。
 クーラーとか、提灯がいっぱい下がったビアガーデンとか」

「一気に不思議な言葉を言うな」
と吉房は眉をひそめた。

 プリンのときのように、吉房には、なにかの情景が思い浮かぶかと思ったが、浮かばないようだった。

 あれはたまたまだったのか。

 それとも、この人があちらの世界では、まだ子どもで、ビールを呑んだことがなく。

 晴明のように、
「とりあえず、ビールとか言う感性が許せない」
とか、めんどくさいことを言う大人ではなかっただけなのか。

 まあ、ともかく、吉房もビールを呑んでみたいようだった。

「帝、協力してくださいますか?」

「まあ、しないこともないが……」
と言いかけ、吉房は気づいたように言う。

「ほら、お前は私さえも手足のように使おうとするではないか」

 そんな恨み言はスルーして鷹子は言った。

「とりあえず、野生のホップを探してるんですけどね」

「ほっぷ?」

「ビールに必要なのは、麦芽、水、酵母、そして、ホップです。

 ホップというのは植物なんですが。

 ビールに苦味と香りを与えてくれ。
 殺菌効果もあり、泡を長持ちさせてくれたりもするので。

 ビール作りに必要な万能薬なんですが……」

 鷹子はそこで眉をひそめた。

「たぶん、求めているようなホップは、今、この国にはないんですよね」

 探せば何処かにあるかもしれないが。

 そう簡単には見つからないだろう。

 涼しいところに生えるものなので、鷹子の時代でも、栽培されていたのは、北海道や東北だ。

「ホップに似た物なら、たぶん、あるんですけどね。

 ホップは別名、セイヨウカラハナソウ。
 でも、日本のカラハナソウならあると思うんですよ。

 それも、そこそこ寒いとこにしかないかもしれませんが」

「カラハナソウか。
 聞いたことはあるが、見たことはないな」

「そうですね~。
 カラハナソウに似た、カナムグラはよく生い茂ってたりしますけどね」

「カナムグラ?」

「えーと、よく歌に詠まれるヤエムグラのことです」

 この時代のヤエムグラは、鷹子の時代のヤエムグラとは違う。

 どうやら、カナムグラをヤエムグラと呼んでいたようなのだ。

「なるほど、ヤエムグラか。

 そうだ。
 お前もひとつ、ヤエムグラで詠んでみよ。

 上手く詠めたら、ホップとやらを探すの、手伝ってやろう」

 そんなことを吉房は言ってくる。

 心地よい夜風が吹き、辺りに吉房が焚きしめている良い香りが漂う。

 そんな風情ある夏の夜――。

 鷹子は歌を詠んでみた。

「や、八重葎やえむぐら……

 ああ、八重葎、八重葎」

 しまった。
 月草のときと同じになってしまった……、
と思う鷹子の目の前を、帝が出してくれた菓子を手に、とととととと、と神様が横切っていった。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

獣人の世界に落ちたら最底辺の弱者で、生きるの大変だけど保護者がイケオジで最強っぽい。

真麻一花
恋愛
私は十歳の時、獣が支配する世界へと落ちてきた。 狼の群れに襲われたところに現れたのは、一頭の巨大な狼。そのとき私は、殺されるのを覚悟した。 私を拾ったのは、獣人らしくないのに町を支配する最強の獣人だった。 なんとか生きてる。 でも、この世界で、私は最低辺の弱者。

『しろくま通りのピノ屋さん 〜転生モブは今日もお菓子を焼く〜』

miigumi
ファンタジー
前世では病弱で、病室の窓から空を見上げることしかできなかった私。 そんな私が転生したのは、魔法と剣があるファンタジーの世界。 ……とはいえ、勇者でも聖女でもなく、物語に出てこない“モブキャラ”でした。 貴族の家に生まれるも馴染めず、破門されて放り出された私は、街の片隅―― 「しろくま通り」で、小さなお菓子屋さんを開くことにしました。 相棒は、拾ったまんまるのペンギンの魔物“ピノ”。 季節の果物を使って、前世の記憶を頼りに焼いたお菓子は、 気づけばちょっぴり評判に。 できれば平和に暮らしたいのに、 なぜか最近よく現れるやさしげな騎士さん―― ……って、もしかして勇者パーティーの人なんじゃ?! 静かに暮らしたい元病弱転生モブと、 彼女の焼き菓子に癒される人々の、ちょっと甘くて、ほんのり騒がしい日々の物語。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ

さくら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。 絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。 荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。 優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。 華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。

処理中です...