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第六章 月読おはぎとオーパーツ
お月見団子と暴れるうさぎ
しおりを挟む「なにか丸くてころんとしていると、お月見団子を思い出すわ」
発酵あんこを使った丸いおはぎを見ながら、鷹子が言うと、
「お月見団子とはなんですか?」
と伊予が訊く。
そうか。
まだこの時代はなかったか、と思った鷹子は、
「そうだ。
他に作りたいものもあるし、みんなでお月見でもしましょうか」
と言った。
風がちょっと冷たくなってきて、空気が澄んでくるころは、名月と言われる日でなくとも。
いつ見てもわりと月は綺麗だ。
「そうか。
では、盛大に月見の宴をやろう」
と吉房が言い出し、みなで合奏したり、庭園の池に船を浮かべて歌を詠んだりした。
満月ではないが、澄んだ影が見える月は綺麗で。
「うさぎが――」
餅をついている、と言いかけ、そういや、まだ餅はついてなかったな、と思い出す。
この時代、月にうさぎがいるとは言われていたが。
餅をついているとは言われてはいなかった。
薬草をひいているか、ぼうっとしているらしい。
……月で、ぼうっと。
暇そうだな、と思いながら、鷹子は命婦たちに言って、高坏を吉房の前に置かせる。
紅い高杯に十二単の袖のようにカラフルに重ねた和紙を敷き、その上に菓子を置いていた。
「ほう。
これはまた艶やかだな」
「あんこ玉です」
と鷹子は説明する。
小さく丸めたあんこの表面を寒天でつるんと固めたものと。
あんこをかなり小さくして、まわりをくず粉入りのぷるぷるの寒天で覆ったものを交互に積み上げいた。
さながら、お月見団子のように。
吉房は、つるんとした方のあんこ玉をひとつとり、口に入れる。
「うむ、これは美味であるなっ」
では、ぷるぷるした方を、ととりかけた吉房だったが、あんこ玉を狙って現れた神様の方をつまんでしまったようだった。
「……これはまずそうだ。
食べると喉に刺さりそうだし」
と言いながら、神様を月に掲げ、眺めている。
「無礼者がっ。
離せっ。
離さんかっ」
と手を上下に振りながら、暴れる神様が、月で餅をついている、愛らしいうさぎに見え、笑ってしまった。
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