同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました

菱沼あゆ

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そんなメニューはありません

僕も依頼していい?

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「なんでここにいる? 久門ひさかど
と田中がその男に訊いた。

「食堂だから」

 お腹すいたから、と久門はごもっともなことを言う。

「……めぐるとなんの話をしてたんだ?」

「え?
 お前のサインが下手な話」

 田中がこちら見る気配がしたので、めぐるは視線をそらした。

「サインなんだからさー。
 いっそ、もっとぐしゃぐしゃっと書いてもいいんじゃない?

 そしたら、字が上手いか下手かなんてわかんないじゃん」
と久門はアドバイスをはじめる。

「……複雑にすると、二度と同じものを書けそうにない」
と田中は白状する。

 ――いや、対局の流れは全部覚えてるのに?

「その点、僕は将棋は八段だけど。
 書道は十段だよっ」

「書道家になれよ……」
と健が言う。

「ははは、相変わらず、久門くんは元気がいいねえ。
 うらやましいよ、その体力。

 最近もう対局しんどくてさ。
 オムライス」
と相変わらず、メニューを見もせず、師匠が言う。

「藤浦先生がオムライスなら、僕もオムライスにしようかな」

 久門は別の一門の人間らしいのに、田中たちより殊勝に藤浦師匠に従う。

「安元さんに聞いたんだ。
 お前が入り浸ってる食堂があるって」

 同じテーブルにつきながら、久門は言う。

「お前、すごい菓子職人の人に、勝つための和菓子を作らせてるらしいね」

「誰がそんなこと言ったんだ?」

「安元さんがそんな雰囲気のことを言ってたよ。
 まあ、僕、人の話、あんまり聞いてないんだけど。

 だいたい、そんな感じのことを言ってた」

 ……上の空で散歩している田中さんといい、棋士ってこんな人ばっかりなんだろうかな。

 一日中、将棋のこと考えてるのかもしれないな。

 私が一日中、なに見てもお菓子のこと考えてるみたいに、とめぐるは思う。

「一番嫌な奴が現れた」

 ぼそりとめぐるの側で健が言う。

「え?」

「田中はさー、こいつが苦手なんだよ」

 ああ……と思わず頷いてしまったが、将棋の上での話だったらしい。

 いや、キャラ的にも合わなさそうだなと思ったんだが……。

「田中の方が技量は上のはずなのに、こいつを前にすると調子を崩すみたいで」

 確かになにやら、ペースに呑み込まれそうですね。

 今も呑み込まれて、オムライスを頼まれされている……と思いながら、めぐるは見ていた。

 久門が言う。

「ずるいじゃないか。
 菓子の力で勝つとか。

 ぜひ、僕もそのすごい伝説の菓子職人にお菓子、作ってもらいたいねっ」

 誰なんだ、そのすごい伝説の菓子職人、と思ったが、みんながこちらを見ている。

「ええっ?
 私、別にすごい伝説とかありませんからっ」

 めぐるは後退しながら、慌てて手を振る。

 だが、容赦無く百合香が小鉢をめぐるの手にあるお盆にのせて来たので、逃げられず、小鉢を持っていく。

 誰だ、今の流れで、オムライスじゃなくて、ハンバーグ定食頼んだのは、と思ったら、師匠の横にいるおじいさんだった。

 コト、と小鉢を置くと、
「ありがとう」
と微笑まれ、なんか、ほっこりする。

「君が伝説の和菓子職人の人?」
と久門に手を握られる。

「……いや、和菓子職人じゃなくて、元パティシエなんですが」

「よかった。
 僕、洋菓子の方が好きなんだよね」

 そうですか。

「僕も依頼していい?」
「えっ」

 久門は人懐こい笑顔を浮かべて言う。

「『絶対、田中に勝てる菓子』を作ってください」

「……そ、そんなものはありません」
 


「あいつ、波に乗ってるときは強いんだ」

 忙しげな久門がオムライスを大絶賛して帰ったあと、田中がぼそりぼそりと話しはじめる。

「俺のスランプの原因だ。
 あいつといると集中が乱される。

 この間は目の前にタヌキがいると思おうとして勝ったが」

 何故、タヌキ……とめぐるは思っていたが。

 実はそれはめぐるのおかげだった。

 田中はいつも、なにかソワソワした雰囲気を持つ久門に集中を邪魔されるのだが。

 ふと、心に絶望のタヌキのつるんとした目が浮かんだ。

「なんにも映してないようなお前の黒い瞳を思い出したんだ。
 ゾッとして心が落ち着いた」

「お前の瞳を思い出して勝ったとか。
 なに、そのラブラブ発言」
と健は茶化すが、

 いや、今、ゾッとしてって言いましたよ……とめぐるは思う。

 ちなみに、集中してるときのあなたの目も似たようなもんですよ、
と思ったとき、健が言った。

「俺も久門は苦手だな~。

 俺が棋士になれなかったのも、あと一勝ってとこで、あいつと当たって負けたせいだしな~。

 ま、そもそも俺が強くなかったせいなんだけど。

 でも、なんか人の調子を崩すやつなんだよな」

「そんなに悪い子じゃありませんけど。
 まあ、動かなくても騒がしい感じがする子ですよね」
と師匠が苦笑いして言う。

 師匠も彼と対局するのは苦手なのだろうか。

「あと俺と今風のイケメンキャラ被ってるし」
と健は言って、

「被ってるか?」
と田中に言われていた。
 



「グルメ漫画なら、料理でなんでも解決なんですけどね~」
とめぐるはもらす。

「田中さんが勝つお菓子とか。
 田中さんが負けるお菓子とか作れませんよ」

「……何故、俺限定」
と田中は呟いていたが。

 いや、勝つお菓子の方はあなたが言ったんですけどね、と思う。

 正確には、勝つお菓子じゃなくて、勝負の邪魔にならないお菓子ですが。

「あ、そうだ。
 リハビリを兼ねて、久しぶりに洋菓子を作ってみたんですよ。

 男の方もわりと好きな人が多い、プリンなんですけど」

「へえー、天才パティシエのプリンかあ」
と健が身を乗り出す。

「たくさん作ったので、みなさん、どうぞ」
と今店内にいる人たちに、めぐるはおまけのデザートとして配った。

「わあ、見た目が普通の混ぜるだけのプリンに見えるのが、またすごいね」

 ガラスの器に入ったぷるぷるのプリンを見ながら健が言う。

「混ぜるだけのプリンの素ですよ」

「……リハビリ、どこから始めてたんだ」
と田中に言われ、

「そういえば、田中さんはスランプと言いながら、宿敵(?)久門さんにも勝ってますもんね」

 私の方がスランプ重症なんですかね~?
とめぐるは自分で小首をかしげる。

「ところで、訊いていいのかわからないが。
 なんで自分をスランプだと思ったんだ?」

「いや~、それがある日突然、お菓子を作りたくなくなっちゃったんですよね」

 それは重症だ……という顔をみんながする。

「今までそんなことなかったんですけど。
 普通の料理をするときくらいやりたくなくなっちゃって」

 いや、お前、どんだけ、ご飯作りたくないんだよ。
 まさかそれで、食堂の手伝いして、まかない食ってんのか?
という顔で田中が見る。

 その通りだ。

 いやまあ、おばあちゃんの手伝いをしたいと言うのもあるのだが――。

「理由がさっぱりわからないんですよね~。
 でも、和菓子は作れるようになりましたしね。

 混ぜるだけのプリンも作れましたよ」
とめぐるが言うのを聞いて、健が、

「そうかあ。
 混ぜただけなんだ~とか思っちゃってごめんね。

 めぐるちゃん、大変な思いして作ったんだね。
 よく味わって食べるよ」
と言ってくれるが、後ろから、百合香が、

「いや、普通に鼻歌歌いながら、作ってたよ」
とカウンター越しにバラしてくる。

「でも、おいしいですよ。
 懐かしい、青春の味です」
と師匠も喜んでくれた。

 健が、
「えっ?
 師匠が子どもの頃からあったんですか? プリンの素」
と驚いて、

「……君は私をいくつだと思ってるんですか」
と師匠に言われていたが。



「おいしいよ、めぐるちゃん」
と店内の人たちにも声をかけられ、

「ありがとうございます。
 その声はハウ○食品の方に伝えてあげてください」
と照れてめぐるは言った。

 いや、ほんとうに混ぜただけなんで、はい……。


 
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