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疾走するさっちゃん
そんなゲームは存在しない
しおりを挟む夜、友だちと話したあと、乃ノ子はあのチャットアプリを開けてみた。
うわ。
まだあるよ、都市伝説 イチ。
まあ、いきなり消えるはずもないのだが。
……ミニゲームなら、適当に都市伝説を入れたら消えてくれるだろうか、と思い、
「トイレの花子さん」
と入れてみた。
するとすぐに返信がある。
さすがAIだ。
というか、チャットボッドだからだよな、と思った。
お客様の質問に速やかに対応するために企業などで使われているチャットボッド。
だが、イチからは、
「てめー、花子さん見たことあんのかよ。
てめーの街の都市伝説だって言ってるだろうがっ」
という荒んだ回答が速やかに返ってきた。
何処の企業が作りやがったんだ、このゲーム……。
ああ、あのイケメンアイドルの会社か。
訴えてやる、と思いながら、乃ノ子は、ふたたび、スマホの電源を落としてみた。
「ねえ、あんた、昨日、メッセージ入れても返事なかったけど~?」
帰り道、またあの陸橋の辺りを通っているとき、友だちに言われた。
「ああ、ごめんごめん、切ってた。
って、あんたが妙なもの登録したからじゃん~っ」
そう言って、乃ノ子は昨日の話をしたが、
「えー?
私、そんなゲーム、始まらなかったよ~」
と彼女は言う。
「まあ、とりあえず、都市伝説入れればいいんでしょ?
そうだ、こんなの知ってる?
『疾走するさっちゃん』」
「なにそれ?」
「よくあるじゃない。
私、リカちゃんよ。
今、あなたの後ろにいるわって。
あんな感じでさ。
さっちゃんってニンギョウがやってくるらしいんだけど。
すごい速さで移動してくるんだって。
しかも、通り道で張ってると見られるらしいのよ、その疾走するさっちゃん」
と言って笑っている。
「写真でも撮れたら、そのイチさんに送ってあげたら?」
じゃ、私、こっちだから、バイバイ、と言って、横断歩道を渡り、あっさりいなくなってしまった。
……疾走するさっちゃん。
イチさんのお気に召すだろうかな?
と思いながら、とりあえず、打ち込んでみた。
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