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ムラサキカガミ

そいつは禁断の恋だな

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「ムラサキカガミ?
 ああ、二十歳まで覚えてたら死ぬとかいうやつな。

 それ、言霊町関係ないだろうが」

 イチにムラサキカガミの話をすると、案の定、そう言われた。

「なので、他の色の鏡の話を作ろうと思ったんですけどね。
 ゴールデン鏡とかは、すでにあるみたいなので」

「ゴールデンがもう出てるんじゃ駄目だろう。
 それより、すごい色ないじゃないか」

 いや、色の凄さで競うものなんですかね。

 っていうか、都市伝説って、そもそも競うものなんですか?

 誰と争っているんですか、貴方は、と思ってしまう。

「でも、イチさん。
 昔は銀の価値の方が高かったみたいですよ」

「じゃあ、シルバー鏡にするのか。
 どんな話だ、それは」

「……どんな話にしましょうかね」

「それも、二十歳までに死ぬ、か?」

「あんまり感じよくないですよね、そういうの」

「……感じのいい都市伝説ってどんなんだ」

「なにか微笑ましい系の都市伝説とか」

「だから、どんなんだ」
と突っ込まれたが、すぐには思い浮かばない。

「探してみますよ」
とだけ乃ノ子は言った。

「そもそも俺なんて、二十歳超えてるから、そんなの聞いても怖くもなんともないしな」

 二十歳超えてるんだ?

 まあ、そうだろうな。
 仕事してる設定みたいだし、と乃ノ子は思う。

 そのとき、従姉の友子ゆうこからメッセージが入ってきた。

「乃ノ子、土曜ヒマ?」

「あ、ヒマヒマ」

 乃ノ子はそう打ち返したあとで、ふと思いつき、訊いてみた。

「ねえねえ。
 怖い鏡の話ない?

 あ、いや、なんかいい都市伝説ない?」

 案の定、
「いい都市伝説ってなによ」
と入ってきたが。

 すぐに、
「怖い鏡の話ならあるよ」
と続けて入る。

「えっ? どんなの?」

「その鏡を見ると、未来が変わってしまうのよ」

「その話教えて」
と乃ノ子が入れるのと、

「私、大学一年のとき、友だちに教えられたんだけど」
「あ、ごめん。
 お風呂入れって」
と続けて入ってきたのが同時だった。

 友ちゃん~っ、と思ったが、そのまま友子からの返事はなかった。

「こらーっ、腹黒乃ノ子ーっ」
とイチから入ってくる。

 しまった。
 イチさん、放置してた、と気づく。

「誰かと連絡とってたたろ。
 なんかいい話聞けたのか?」

「あ、見ると、未来が変わる鏡の話を聞きました」

「そうか。
 それはなかなか面白い。

 言霊町の都市伝説なんだろうな?」

「たぶん。
 従姉の家も大学も言霊町なんで」

「そうか、腹黒乃ノ子。
 詳しく話を聞いてこい」

 腹黒そうなのは貴方の方ですよ、と思いながら、乃ノ子は言った。

「わかりました。
 禁断のイチさん」

 これで貴方も厨二病仲間、と思ったのだが、イチは動じず、

「そうだな。
 俺に恋はするなよ、禁断の恋になるぞ」
と言って、じゃあ、といなくなった。

 なにが禁断の恋ですか。

 AIに恋なんてしませんよ、と思いながら、乃ノ子は友子からの返信を待つ。

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