34 / 94
幽霊タクシー
あやしい公衆電話
しおりを挟む帰り際、
「……乃ノ子!」
と友だちが呼びかけてきた。
足を止め、振り向いたが、
「いや……なんでもない」
と言ったあとで、じゃあね、と友だちは手を振る。
自動販売機の前の空間から出るとき、乃ノ子がもう一度振り返ると、友だちはあの図書館の方を見上げていた。
「公衆電話、今から行ってみますか? イチさん」
乃ノ子は横を見たが、イチも消えている。
……ひとりで話すヤバイ人になってしまったではないですか、と思いながら、乃ノ子は周囲を見回した。
幸い、駆け抜けていく自転車の人くらいしかいなかった。
何故、私がまたひとりで行くはめに。
あまり近寄るな的なこと言ってなかったですか、イチさん、と思いながら、今は咲いていない桜並木の坂道を抜け、乃ノ子は図書館へと向かった。
一番上まで上がったところで、振り向いてみる。
眼下に広がる町を見下ろした。
言霊町全体が黄昏の光に包まれている。
雲の切れ目から差し込む光が数少ない高層ビルに当たっていて綺麗だった。
なんで『言霊町の都市伝説』なのかな、と思いながら、乃ノ子はまた歩き出す。
すると、図書館手前の茂みでなにかがガサガサッと動いた。
犬? 猫?
と見ると、白いもふもふしたカタマリが飛び出してきた。
そのまま、道を挟んで反対側の茂みに飛び込んでいく。
なに今の……ウサギ? 猫? 犬?
小首をかしげながら、乃ノ子は図書館裏に行こうとしたのだが、後ろで道の左右にある茂みが交互にガサガサ言っている。
あちこち動き回りながら、なにかがついて来ているようだ。
えーと……と思いながらも然程気にせず、乃ノ子は裏まで行く。
あまり怖さは感じなかったからだ。
「遅いじゃないか、乃ノ子」
と声がした。
例の公衆電話の前にイチがいた。
「なんで私を追い越して先にいるんですか」
「いや、ちょっと今、存在が不安定で、消えるつもりはなかったんだが。
此処のことを考えていたせいか、こっちに飛んでしまった」
とイチは言い出す。
突然現れるホログラムか……。
そのとき、ふと思った。
もしかして、そうなのかなと。
イチさんの本体というのは別の場所にあって、今此処にいるイチさんは映像のようなものなのではないかと。
「イチさん、その身体、ニセモノなんですか?」
「なんでそう思う?」
「不安定だとか言うからですよ」
イチは呪いの公衆電話に肘で寄りかかり、少し考える風な顔をしたあとで、
「まあ、そうなのかもな」
と言ってきた。
「俺のほんとうの本体は未だ閉じ込められたままなのかも」
「それ、何処にあるんです?」
「俺は知らない。
知ってるのは、お前だ。
……すねこすり」
となにかがガサガサしている茂みを見て、イチは言う。
「それ、乃ノ子だぞ。
いいのか? 怖くないか?」
……どういう意味だ。
「すねこすりって、雨の日に現れる、もふもふのあやかしですよね?」
「お前ら女子、もふもふなら、なんでもいいんだろ。
動物でもあやかしでも。
ほら、乃ノ子様だぞ、行ってみろ」
何故か様をつけて乃ノ子を呼び、イチはそのあやかし、すねこすりをけしかけていたが。
寂しいことに、もふもふは来なかった。
代わりに、すねこすりはイチの腕に飛び込む。
白くて、もふもふっ。
あやかしでもいいっ、と乃ノ子はイチが言っていたとおりのことを思ってしまった。
「すねこすりに触るなよ、乃ノ子。
消えたら困るから」
とよくわからないことを言う。
イチさん触ってるじゃないですか。
人から遠いものが触るのはオッケーなんですね?
と思いながら、乃ノ子は、
うう、触りたい。
こんなの拷問だ、と思いながら、イチの腕の中のすねこすりを眺めていた。
すると、突然、公衆電話が鳴り出す。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。
楠ノ木雫
恋愛
蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる