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幽霊タクシー
いい都市伝説はありませんか?
しおりを挟む「ねえ、なんかいい都市伝説ない?」
乃ノ子は休み時間、紀代と風香に訊いてみた。
「またあ?」
と椅子に座る紀代は眉をひそめ、
「都市伝説ですか。
考えてみますっ」
と乃ノ子といっしょに紀代の机の前にいた風香は拳を作る。
いや、新たに考えちゃ駄目……と乃ノ子は苦笑いした。
「この間、乃ノ子さんにはお世話になりましたしね」
「いや、全然役に立ててないと思うけど……」
風香に頼まれたホンモノが出るお化け屋敷は、ホンモノの芸能人が出るお化け屋敷だった。
真実を話すわけにはいかないので、幽霊は出なかったよ、と曖昧に誤魔化して終わってしまったのに、と乃ノ子は申し訳なく思っていたのだ。
そのとき、
「都市伝説といえば」
といきなり、背後で声がして、わああああっと乃ノ子は声を上げる。
背後に、そこそこ若く、そこそこイケメンの元中学教師、志田哲郎《しだ てつろう》が立っていたのだ。
「な、なんでいるんですか、先生っ」
「いや、ちょっと此処の教頭に資料借りに来て」
そういえば、教頭、化学教えてたな、と乃ノ子は思い出す。
「教頭、趣味で危険な薬品集めてるし」
「危ないじゃないですか」
「どうだ?
マッドサイエンティストな高校の教頭って都市伝説は」
「殴られますよ、教頭先生に……」
それから、志田は乃ノ子たちと少し話していたが、去り際、手を叩いて言う。
「そうだ。
幽霊タクシーの話を聞いたな」
「後ろ乗ってる人がいきなり消えるとかいうアレですか?」
そう紀代が訊いたが、志田は、
「いや~、よくわからんが。
確か、何処かから電話をかけて、タクシーを呼んだら、なにかがどうにかなるいう話だったぞ」
とこれ以上ないくらい曖昧なことを言ってくる。
「まあ、あんまりややこしいことには首を突っ込まないようにな」
乃ノ子たちにそう釘を刺し、志田は帰っていってしまった。
「何処かから電話をかけたら、なにかがどうにかなるとか。
今の話、何処を参考にしたらいいのかしらね……」
志田が消えた教室の入り口を見ながら、乃ノ子は呟く。
風香たちは笑っていた。
「その話をどうしろと言うんだ、あの先生は」
案の定、イチは眉をひそめ、そう言ってきた。
何故、眉をひそめているのがわかるのかと言うと、リアルイチが今、目の前にいるからだ。
乃ノ子は突然現れられると心臓に悪い顔だ、と思い、イチを見上げた。
あの鎧武者なイチを思い出す。
……この人、普段は、あんな目で私を見ないよね、思いながら。
あれ、ただの夢だとすると、私の願望なのだろうかな、と缶ジュースに口をつけながら乃ノ子は思う。
「幽霊タクシーか。
何処から電話かけるんだろうね」
と言う例の友だちも今は一緒だ。
あの自動販売機の前だからだ。
「いや、実は、ちょっとひとつ心当たりあるんだよね」
そう乃ノ子が言うと、
「あの公衆電話か」
とイチが図書館の方を見ながら言ってくる。
「そういえば、お前、このおトモダチから聞いたんじゃなかったか?
『此処ではない何処かにつながる公衆電話』の話」
イチに見下ろされた友だちは、ああ、そうだったかも、と頷いていた。
「私、ずっと此処にいるから、いろんな噂話が聞こえてくるんだよね。
それで……、聞いたような……」
なにかを思い出そうとするような顔をして、友だちは眉をひそめる。
そんな友だちにイチが、
「おい、友だちの友だち」
と呼びかけた。
「いや、なんで、友だちの友だちなんですか」
友だちでいいじゃないですか。
そう乃ノ子は言ったが、イチは、
「こいつ、都市伝説だから。
友だちの友だちだろ。
普通、都市伝説は友だちの友だちから聞くものだろ」
と言う。
すると、友だちは笑い、
「それはともかくとして、イチさんは乃ノ子の友だちだから。
確かに私はイチさんから見たら、友だちの友だちですけどね」
と言ってきた。
「待て。
なんで、俺がこいつの友だちだ」
「いやいや。
じゃあ、なんでいっしょにいるんですか」
そう笑って友だちは言ったが、イチはケロッとした顔で、
「仇だから」
と言う。
「誰が?」
「誰の?」
とふたりは聞いたが、イチは答えない。
「そんなことより、その公衆電話からかけてみるか」
と勝手に話を終わらせる。
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