43 / 94
0番線ホーム
殺されますよっ!
しおりを挟む眩しいな……。
乃ノ子は寝返りを打ち、目を覚ました。
窓から差し込む眩しい朝の光。
鳥の鳴き声。
極普通の朝だ。
なんだ、夢だったのか、と思いながら、乃ノ子は少し燻くすんだ白い天井を見上げていた。
……いや待て。
うちの天井、こんな色じゃないぞ。
飛び起きようとした乃ノ子は気がついた。
隣にイチがいることに。
同じベッドの上にイチがいた。
立てた片膝に頬杖をつき、考えごとをしているようだった。
慌てて乃ノ子は周囲を見回す。
白いシーツに白い布団。
簡素すぎて、監獄か、と思うようなシングルのベッド。
その前にある茶色い革張りのソファだけ、やけに立派で。
あとある家具はキッチンに近くもない場所に、唐突にあるダイニングテーブルくらいだった。
そのダイニングテーブルの上には雑多に本やファイルが積まれていて、ノートパソコンまで置かれている。
少々広すぎるが、仕事用デスクにしているようだった。
ふいにイチが口を開いた。
「昨日、延々と歩きながら、このあとどうするつもりなのかなと思ってたら」
「どうするつもりって、誰がですか?」
「都市伝説」
とイチは言う。
それだと、都市伝説って人がいるみたいだな、と思ったが。
まあ、都市伝説って生き物みたいではあるよな、と乃ノ子も思う。
いろんな人の意識が介在しながら、成長して、何処へともなく流れていく――。
「……いきなり途切れて目が覚めた。
ネタ切れかな」
そんなことをイチは呟く。
都市伝説、ネタ切れなんてするんですか……?
イチは、やはり、誰かがあの場所を作り上げたと考えているような気がした。
「でも結局、中田さんの作り話だったんですよね? 0番線ホームの話」
「都市伝説なんて、最初は全部作り話だ」
とイチは乱暴なまとめ方をする。
「その中に、ほんの少しの真実があったり。
ニセモノの話が語り継がれているうちに、真実になっていったりするだけだ」
確かに、都市伝説とは、そういうものかもしれないが……。
ところで、私は何故、此処に……と思いながら、乃ノ子はイチを見上げて訊いた。
「あのー、此処はもしや、イチさんの――」
「うちの事務所兼住居だ」
「ということは、此処は、謎のマフィアが回覧板回してきそうな雑居ビル!」
殺される! と思わず叫ぶと、イチが、
「その場合、誰が殺すんだ?」
と冷静に訊いてきた。
「えーと……回覧板回してきた謎のマフィアですかね?」
と乃ノ子が言ったとき、コンコンと扉を叩く音がしたが、すでに扉は開いていたようだった。
「僕は嫌ですよ、殺すの」
回覧板手にしたマフィアが言う。
大胆な色柄の入った赤い地のシャツに白いパンツ。
パンツの左裾の方には何故か水墨画で描かれた龍のような模様がある。
濃いイケメンだが、目つきが只者ではない感じだ。
思わず乃ノ子は身構えたが、男は、
「そもそもマフィアじゃないですから」
と言いながら、本が山積みのダイニングテーブルにその回覧板を置いた。
「前、俺の住まいは、マフィアが回覧板回してきそうな雑居ビルだと言ったのは、ただの例えだ。
この人は、ただただファッションセンスがおかしいだけの喫茶店のマスターだ」
「イチさん~、女の子連れ込んでるときは、鍵くらいかけなよー」
ファッションセンスがおかしい、ただの喫茶店のマスターが苦笑いして言ってくる。
「あとで食べに行くから、なにか用意しといてくれるか?
乃ノ子、なんでもいいか?」
え、はい、と乃ノ子が言うと、
「了解~」
と言って、マスターは階段を下りていったようだった。
そちらを見ている間にベッドを下り、窓際に行っていたイチが下を覗いて手招きしてくる。
いっしょに下の通りを覗くと、仕立てのいいスーツに手入れの行き届いた黒い靴を履き、颯爽と歩いている男が見えた。
「マフィアじゃないが、あれがその筋の人」
「……完全にエリートサラリーマンですね」
と駅へ向かって歩いているらしい男を乃ノ子は見る。
「この界隈をこんな時間、あんな格好で歩いてること自体がまともじゃないがな」
そういえば、すぐそこに駅があるのに、通勤通学の人は少なく、街は静かだ。
普通の街なら、人々が駅に向かってゾロゾロ歩いている時間帯なのに。
「っていうか、エリートサラリーマン、ゴミ持ってますね」
「ゴミの日だからな」
マフィアだろうが、ヤクザだろうが。
まあ、ゴミは出るよな、と妙に納得する。
「今や、マフィアもヤクザもパッと見、普通の企業なことが多いしな」
「そんで社畜とか呼ばれてたりするんでしょうかね?」
それじゃ、普通に働いてるのと変わらないな、と去りゆくサラリーマンの背中を見ながら乃ノ子は思った。
「袖振り合っただけで、イチさんの指の一本や二本、へし折るとか、切り取るとか、そういう感じじゃないんですね、今は」
「……何故、やられるの、俺限定だ。
暇なこと言ってないで、早くしろ。
学校、遅れるぞ」
「そ、そういえば、朝帰りなんて、どうやって帰ったらっ」
うちの家に転送してくれればよかったのに、都市伝説っ、と思ったが。
自分の部屋で目覚めたら、横にイチ、というのも相当まずい気はしていた。
イチは腕時計をしているのに、壁の時計を見、
「いつものお前ならまだ寝てる時間じゃないのか?
下に下りて、さっさと食え。
早く戻って、そっと部屋に戻るんだ」
と乃ノ子を急かす。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。
楠ノ木雫
恋愛
蒸発した母の借金を擦り付けられた主人公瑠奈は、お見合い代行のアルバイトを受けた。だが、そのお見合い相手、矢野湊に借金の事を見破られ3ヶ月間恋人役を務めるアルバイトを提案された。瑠奈はその報酬に飛びついたが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる