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「ふっかつのじゅもん」
あの、こっちがヤバイ人になってます
しおりを挟むヤクザたちは乃ノ子を見て驚く。
「誰だっ、お前はっ」
ひーっ、イチさん、早くーっ、と乃ノ子は周囲を見回した。
が、あんなことを言っておいて、イチの方が寝られなかったのか、まだ来ない。
「来いっ」
と男が乃ノ子の腕をつかもうとしたが、つかめなかった。
「おい、なにふざけてるんだ」
とアニキっぽい男が、その男に言っている。
「だって、つかめないんですっ、この女の腕がっ」
莫迦か、お前は、という顔をして、電子タバコをくわえたアニキが近づいてくる。
健康と周囲に気を使っているようだ。
乃ノ子の腕を、今度はアニキがつかもうとしたが、やはり、つかめない。
「……逃げた様子もないのに。
お前、武道の達人か?」
いや、まったく動いてないですよね。
するっと交わしたわけじゃないですよ、と乃ノ子自身、おっかなびっくり自分の腕を見る。
どうも、この男たちは乃ノ子に触れず、乃ノ子の方も彼らに触れないようだった。
「……てめえ、なにもんだ」
と後藤に似た据わった目でアニキが訊いてくる。
なにもんだって……。
言霊町に住んでる普通の女子高生、福原乃ノ子です、と思っていたが。
たぶん、そういう答えを期待しているわけではないのだろうし。
第一、こんなところで本名を言うのも物騒だ。
「あ、暗黒の乃ノ子……」
なにか格好いい通り名を言いたかったのだが。
完全に厨二病の痛い人になってしまった……。
イチさんめ、刷り込みだ、と思ったとき、イチがやってきた。
「乃ノ子っ」
といきなり湧いて出る。
「イチだっ」
とそのヤクザたちが慌てた。
「なんだ、お前らか」
と言ったイチに、彼らは口々に叫ぶ。
「すねこすりのイチかっ」
「なんで甲冑着てるんだっ」
「……その辺の文句は乃ノ子に言え。
っていうか、すねこすってるのは、俺の連れてる奴で、俺がすねこすってるわけじゃないからな」
と言うことは、このヤクザの人たちはふわふわのすねこすりに、すねこすられたのか、うらやましい……と乃ノ子は、うっかり思ってしまう。
私には、すねこすり近寄ってきてくれないのに~、と思ったとき、子分っぽい男が叫んだ。
「イチの連れだったのかっ。
どおりでおかしな女だと思ったっ」
……いや、おかしな女だって。
私、まだなんにもしてませんからね、と思いながら、乃ノ子は小声でイチに教える。
「イチさん、この人たち、私に触れません。
それから、私、あの捕まってる人に触れなくて、縄解けませんでした」
イチは軽く頷き、考えたあとで、縛られている男を見て言う。
「こいつがなにをしたのか知らんが。
此処に閉じ込めて放置しとくくらいのお仕置きながら、たいしたことじゃないんだろう。
俺の顔に免じて、今回は許してやってくれないか」
子分の方が、
「なんで、てめえの顔に免じなきゃなんねえんだよ」
ともっともなことを言ったが、イチは、
「じゃあ、部屋にしつこく出る女の霊を俺に除霊してもらって、大感謝しているお前んとこの組長の顔に免じて、許してやれ」
と彼らに向かい言った。
「……放してやれ」
アニキは油断なくイチの様子を伺いながら、言う。
子分たちが男の縄を解いた。
「あっ、ありがとうございますっ。
もうしませんっ」
男はアニキたちとイチに詫びる。
いや、なにをしたんですかね……と思っていると、丁寧に縄を丸めて持って帰ろうとしていた子分のひとりを、
「待て」
とイチが止める。
「その縄、此処に置いていけ」
「……な、なにをするつもりなんですかっ?」
一番下っ端らしいその子分が、イチを見て、縄を見て、乃ノ子を見る。
「いや、そうじゃない。
ちょっと置いていけと言っただけだ。
深い意味はない……」
とイチは言っていた。
縄を置いて彼らは帰っていったが、子分はちょっと心残りそうだった。
「片付けたい人なんですかね?
ゴミ分別しないと落ち着かない人っていますよね」
「リサイクルしたいんじゃないか?」
「なにに使うんですかね? 縄。
新聞をしばるとか?」
いや……、人だろうな、と思いながら、乃ノ子は夕暮れの光の中、デスクに置かれた縄を見つめた。
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