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学校VR ~七不思議~
VRで学校探検中
しおりを挟む「もしかして、私たちに見えてないだけで、この学園、七不思議があるのかもっ」
そう嬉しそうに言い、紀代は乃ノ子の真後ろについて歩いている。
自分にはどうせ見えないと安心しきっているようだ、とイチは思った。
「次はやっぱ、理科室でしょうっ」
紀代は今にも乃ノ子の首根っこをつかみ、引きずっていきそうだった。
その勢いに、此処に七不思議を探しに来たんだったかなと、うっかり思ってしまいそうになる。
そんなことを考えながら、イチは最後尾を歩いていたが。
何故か神川が自分の真横にいた。
チラとこちらを見る。
だが、自分が視線を向けると、パッとそらしてしまった。
そのとき、乃ノ子が前で叫ぶのが聞こえてきた。
「いや、ないからっ、理科室なんてっ。
生物室とか化学室ならあるけどっ」
ベートーベンの肖像画と一緒で、ないからっ、と叫びながらも連れていかれている。
「結局、学校の七不思議って、小学校仕様なのよね~」
と言う彩也子の声を聞きながら、
「神川」
とイチは呼びかけた。
「お前、何故、今日、此処に来た?」
「……福原が俺の机を呪ったからって言いませんでしたっけ?」
聞こえているのか、いや、呪ってない……という言い出しそうな口許で、先頭を行く乃ノ子が、声を頼りに、こちらを振り返っているのが見えた。
小さな顔のほとんどを白いVRゴーグルで覆われているが、発する気配でなにを考えているのかわかる。
今生の乃ノ子は、あまり隠し事をできない性格のようだった。
「神川、お前に霊感はない。
だから、気になってたんだ。
なんで、お前の机の上にあのVRゴーグルがあったのか――」
イチさんが神川を問い詰めているようだ、と思いながら、乃ノ子は紀代に追い立てられ、先頭を歩いていた。
また月明かりで校舎の中が見えるようになったようだが。
紀代は、七不思議を探したいというわりには、乃ノ子より前に出ようとはしない。
乃ノ子がVRゴーグルをつけているからというわけではなく。
単に先頭を進むのが怖いようだった。
因縁と怨念で襲いかかってくるような霊は今のところいないんだが……と思いながら、乃ノ子は後ろのイチたちの話に耳をそば立てる。
「……実はVRゴーグルを拾ったんです、道で。
警察に届けようかと思ったんだけど。
ちょっとその場で使ってみるくらいいいかって。
VRゴーグル、買ってみたかったんだけど。
俺の友だちもまだみんな持ってなかったから、どんな感じかお試しに」
お試しなら、100均に500円であるんだが……と思いながら、乃ノ子が聞いていると、
「そのVRゴーグルを拾った場所でつけたあとで。
あ、スマホ入れないとなんにも見えないって思ったんですけど。
勝手に映像が見えて」
と神川は言う。
「目の前に夕暮れどきの登下校路が広がってました。
それでそれを拾ったお弁当屋さんの横の細い道を……」
「あ、霊」
という彩也子の声が聞こえてきた。
ぎゃーっ、と紀代は悲鳴を上げて駆け出す。
VRゴーグルをつけて無防備に立っていた乃ノ子は紀代に肩にぶつかられ、吹き飛ばされてしまった。
だが、誰かの手が乃ノ子を後ろから支える。
イチのようだ。
「なにやってんだ。
ちゃんと前見て歩け」
と耳許で言われる。
……と言われましても、私の視界はVR。
そう思いながらも、助けてもらったのは確かなので、
「ありがとうございます」
とイチに礼を言ったが、イチはイチで、ん? と言っている。
駄目だ、気になるっ、と乃ノ子は、ついにVRゴーグルを外した。
すると、乃ノ子を支えて無理な体勢をとったらしいイチを何故か神川が支えている。
「……なにやってんの? 神川」
と乃ノ子が問うと、神川はイチを支えたまま、
「……わからない」
と呟いた。
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