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学校VR ~七不思議~
神川、何者なんだ……
しおりを挟む暗闇の中、他になにも見えなかったのに、あの人の姿だけが見えた。
赤い大鎧を身につけた黒髪の美しい若武者。
神川はVRゴーグルをつけたとき見たイチの姿を思い出していた。
その状態で、
「神川」
とイチに呼びかけられ、
「はっ」
と反射的にその場に片膝をつき、畏ってしまう。
みんなが沈黙して、自分を見下ろしていた。
「お、俺は一体、なにを~っ」
と頭を抱えて苦悩したとき、イチの背後に忍び寄る乃ノ子の姿が見えた。
何故かVRゴーグルを振り上げ、イチを殴ろうとしている。
「壱様っ、危ないっ」
と神川はイチに体当たりしていた。
乃ノ子の方の気配を感じて振り向こうとしていたイチがふいを突かれて、吹っ飛んでいく。
「神川~っ!」
「すっ、すみません~っ。
身体が勝手に~っ」
神川は起き上がってきたイチにペコペコと頭を下げた。
……おかしい。
何故なんだ。
イチさんを守らなきゃと思ったり。
この人にはどうしても頭が上がらないなと思ったり。
ちょっと気になっている福原乃ノ子を見て、イチ様、こんな怪しげな女にたぶらかされるなんて、と思ってしまったり……。
まるで、自分の中にもうひとつの人格が潜んでいるようだ、と神川は思う。
……一体、何者なんだ、神川。
反射的にイチさんを守ろうとしたり、はっ、とか言っちゃったり。
そんなことを思いながら、乃ノ子は今、神川の反応を見るために、イチに殴りかかろうとしたVRゴーグルを彩也子に投げる。
「彩也子やりなよ、今度は」
「えーっ。
やだって言ったじゃんっ」
となにか怖いものであるかのように……
いや、実際、呪われたVRゴーグルなのだが、それを手で弾いて、彩也子は神川に回す。
「ぼ、僕が被ってもなにも見えませんからっ」
神川も手で弾き、ゴーグルは紀代のところに行った。
「えっ?
怖いからやだっ」
元スポ少バレーの紀代がレシーブする。
「壊れるだろうが……」
とイチが言ったとき、VRゴーグルが、すぽっと風香の手に収まった。
人の良い風香は、えー? という顔をして、そのまま困っている。
その手から、ひょいと紀代がゴーグルをとり、
「風香ちゃんが可哀想じゃん。
やっぱ、乃ノ子が被りなよ」
とこちらに渡してくる。
待て。
私は可哀想じゃないのか……と乃ノ子は思ったが、確かに風香に呪いのゴーグルを被せるのは胸が痛む。
風香ちゃん、いいなー。
得なキャラだなー。
私は完全損なキャラだが、と思いながら、乃ノ子は、
「しょうがないなあ」
と言って、またVRゴーグルを被った。
みんなの姿が消え、霊だけが見える。
「まあ、乃ノ子だったら、少々のこと大丈夫だもんね」
と彩也子が笑うのが聞こえてきた。
いや、あんたも大丈夫でしょうが、と思ったが。
姿が見えずに、声だけ聞いていると、彩也子の口調がちょっと憂いを帯びているようにも感じられた。
さっきの神川の話を気にしているのかもしれないと乃ノ子は思う。
『お弁当屋の裏に白骨死体があって、ビックリして投げ捨てたんだ』
彩也子が無意識のうちに、ずっとこだわり、霊となってとどまっていたお弁当屋周辺。
……気になるな、と思いながらも、乃ノ子は、
「じゃ、次行こうっ、次っ」
と言う現金な紀代に手を引かれ、次の七不思議へと……
というか、七不思議のありそうな場所へと向かう。
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