80 / 94
学校VR ~七不思議~
お弁当屋さんの裏
しおりを挟むなんだかんだ誤魔化しながら書類を作ってもらい、呪いのVRゴーグルを置いて帰った。
交番が呪われないだろうか……と思いながら。
「おまわりさん、被ってみたりしないですかね?」
「するかもな」
「交番の中、いろいろ霊も立ち寄ってそうですよね」
「そのようだな」
と言って、イチは笑っている。
可哀想に、おまわりさんたち、余計なことを知ってしまいそうだな、と思いながら、乃ノ子は交番の赤い光を振り返る。
イチに家まで歩いて送ってもらいながら、乃ノ子は訊いた。
「イチさん、神川には俺と関わらない人生もあると言ってましたけど。
私も……」
最後まで言い終わらないうちに、イチは言ってきた。
「お前に俺と関わらない人生はないぞ」
いや、逆か、と自分には、なにもいないように見える夜道の先を見ながら、イチは呟く。
「俺にお前と関わらない人生はない」
その横顔を見ながら、ちょっとホッとしている自分がいた。
……が、イチはいきなり愚痴り始める。
「……なんでこんなことになったんだろうな。
もう千年以上だぞ。
俺はいつまでお前に呪われる?」
いや、呪った覚え、ないんですけとね……と思いながら、乃ノ子はイチとふたり、住宅街の道を歩いて帰った。
「今日はありがとうございました」
と乃ノ子は風呂上がり、イチにメッセージを入れた。
「いや、新しい都市伝説が見つかりそうでいいんだが。
しかし、VRゴーグルなんて、一般に出回ったの最近だろ。
新商品出ると、すぐ呪われるんだな」
とイチが返してきたので、笑ってしまった。
確かに。
呪いは新商品を見逃さず、ゲーム機、ガラケー、スマホと出た端から、すかさず狙ってくる。
いや、単に人間が使う物だからか。
呪うのも呪われるのも人間だから――。
可愛いキツネのゲームをやって眠ると、また夜の教室に乃ノ子はいた。
神川の机の上に、まだあの白いVRゴーグルはあった。
「……神川を呪ってるの?」
いや、と乃ノ子は笑った。
「楽しかったのかな?
七不思議を調べる探検が」
また行こう、と言って、乃ノ子は、つるんとしたゴーグルに、そっと触れてみる。
「なにがまた行こうよっ。
交番行ってみなさいよ。
きっとあのゴーグルまた消えてるわよ。
そんで勝手に学校とかに戻ってるわよっ」
そう彩也子が朝の自動販売機の前で文句を言ってくる。
「彩也子、まだいたの?」
と実体の彩也子に言うと、彩也子は落ち着きなくウロウロその辺を歩きながら、
「だって気になるじゃないの。
なんなのよ、神川が見たお弁当屋さんの裏の白骨死体ってっ」
と言ってくる。
「大丈夫だよ、彩也子生きてるじゃん」
と言ったが、彩也子は沈黙する。
ああ、と乃ノ子は言った。
「もしかして、自分がお弁当屋さんの裏で誰か殺して。
それで、ずっと此処が気になってて、生き霊になって出てきてるとか思ってる?」
「あんた、ちょっとは包み隠してしゃべるってことを覚えなさいよねーっ」
「大丈夫だよ。
彩也子はそんなことしないよ」
そう言ったあとで、乃ノ子は上を向いて、少し考え、
「大丈夫だよ。
やってても友だちだよ」
と言いかえる。
「あんた、今、やってたときのこと想定したわねーっ」
と慰めたのに怒られた。
いやいや、大丈夫大丈夫、となにも大丈夫でない感じに言いながら、乃ノ子は、
おっと、忘れてた、とスマホに打ち込む。
言霊町の都市伝説がまとめてあるアプリメモの一番下に入れた。
『夜の教室に、夜毎、学校の七不思議を求めて彷徨うVRゴーグルが現れる』
「……いや、あのVRゴーグル、ただそこにあっただけじゃん。
彷徨うVRゴーグルにしたの、あんたでしょうが」
覗き込んで言う彩也子に、スマホから顔を上げ、乃ノ子は言った。
「よし、じゃあ、行こうか、彩也子」
「ど、何処によ」
彩也子は身構え、訊いてくる。
「お弁当屋さんの裏に決まってるじゃん」
いやーっ、と彩也子は踏ん張ったが、乃ノ子は腕をつかんで連れていく。
生き霊なら逃げられてしまうかもしれないが、本体なので大丈夫だ。
二人は自動販売機の横を通り、裏の側溝を覗く。
だが、白い側溝の蓋の上にはなにもない。
「ほら、彩也子。
なにもないないじゃん」
「あ……当たり前じゃない」
ホッとしたように彩也子は言っていた。
「じゃあ、安心して帰りなよ。
大学、授業あるんじゃないの?」
と言うと、
「まあね。
昼からだけど。
……まあ、また遊びに来るわ」
そう言い、手を上げて行ってしまった。
バス停に向かうその後ろ姿を見ながら、乃ノ子は思う。
確かになにもなかったけど……。
「夕方、見てみないとわからないけどね」
そうぼそりと呟いた。
神川がVRゴーグルで見たのも夕方だったし。
彩也子のあの言葉。
『夕方5時ごろ、救急車の赤い光を学校近くの交差点で見ると、知らない間に悲鳴を上げちゃうんだって』
そろそろ確かめる頃なのかな、と思いながら、乃ノ子はひとり、お弁当屋と自動販売機の隙間から行けるお弁当屋の裏を見た。
「学校VR ~七不思議~」完
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
50
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる