都市伝説探偵 イチ ~言霊町あやかし通り~

菱沼あゆ

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暁の静 漆黒の乃ノ子 ~大正時代編~

前世の記憶

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「道端のものに迂闊うかつに手を合わせるなと言わなかったか?
 しず

 鬱蒼とした木々に囲まれた獣道。

 木のほらの中のお地蔵様に手を合わせていた乃ノ子は後ろからした声に振り返る。

 真っ黒な外套がいとうを来たイチが立っていた。



「……って夢を見たのよね」
と言った乃ノ子に、

「いつ?」
と教室で弁当を食べながら、紀代が訊いてくる。

「今」

 今!? と紀代と風香が訊き返してきた。

 紀代の横から、神川が、
「寝てたぞ、世界史。
 こいつ、爆睡だった」
と言ってくる。

 乃ノ子のクラスの男子のところに遊びに来ていたらしい。

「あれっ?
 神川って、世界史一緒なの?」
と乃ノ子は訊いた。

「……ああ、春からずっとな」

 そう呆れたように、忍者、神川は言う。

 いや、忍者なのかは知らないが。

 どうやら、神川は前世で、イチの従者だったようなのだ。

 そして、過去存在していた乃ノ子のことを、

 イチ様、こんな怪しげな女に騙されて、と疎んじていたようなのだ。

 今は私の方がイチさんに騙されそうなんだが、と思いながら、乃ノ子はサンドイッチをパクつく。

 卵たっぷりサンドにプチトマトにナゲットがちょろっと。

 そして、櫛形に切ったネーブル。

 弟の慎司しんじが乃ノ子の弁当を覗いて、
「鳥の餌かっ。
 足りるのかっ」
と叫んでいた。

 あいつ高校生になったら、ドカ弁と学食、ダブルで行くな、きっと、と乃ノ子は思う。

「でもさー。
 前世からの人間関係とか。

 なんかロマンティックよね」

 夢みがちな感じで紀代は言うが。

 いや、今のところ、なにもロマンティックではないのだが……。

 わずかに思い出した記憶の中でも、常に自分はイチにいいように働かされている。

 ジュンペイさんも思い出してんのかなあ。
 前世でも兄弟だったみたいだけど、と思いながら、乃ノ子は弁当を食べ終わった。

「神川、あれからVRどうなった?」
と乃ノ子が見上げて訊くと、

「……知らねえよ。
 夜、来てねえから」
と神川は言う。

「あるよね、夜来たら。
 100パー、神川の机の上にあるよね」
と紀代が笑い、

 他人事かと思って、という顔を神川はしていた。

「VRゴーグル、みんなが来るのを待ってるのかな。
 じゃあ、また行ってあげないとね」
と乃ノ子が言うと、

 おま……と文句を言いかけた神川だったが。

「楽しかったしね」
と笑うと、

「……まあな」
とだけ言って、友だちのところに戻っていってしまった。

 その後ろ姿を見ながら、ひひひ、と紀代が笑う。

「神川、複雑~っ。
 言ってみれば、上司の彼女に横恋慕してるみたいなもんだもんね」

「……上司の彼女って誰?」
と訊いた乃ノ子に、紀代は、

「上司がイチさんで、彼女があんたでしょ」
と言う。

「いや、前世でも、全然そんな感じじゃなかったよ。
 っていうか、神川も別に私のことなんとも思ってないでしょ」

 そう乃ノ子は言ったのだが、紀代は風香と顔を見合わせて笑い、

「いやいや。
 面白くなってきた~」
と小声で言い合っている。

 待て待て。

 前世は前世。

 今は今。

 そもそも、前世と私のイチさんってどうだったっけ?

 一番近い。

 大正時代の私とイチさん……。


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