そこらで勘弁してくださいっ ~お片づけと観葉植物で運気を上げたい、葉名と准の婚約生活~

菱沼あゆ

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こんなときこそ、お片づけ

コンビニの使い捨てスプーンをなにかに活用できないだろうか……?

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 考えさせてください、と言ってしまった。

 マンションに帰ったあと、葉名はひとり思いわずらう。

 そう言ってしまった以上、考えてみようと思うのだが、なんだか考えがまとまらない。

 こんなときこそ、お片づけだな、と思いながら、ソファから立ち上がった。

 既に十二時過ぎ。

「もう寝たら?」
と涼子などには突っ込まれそうな時間だ。

 洋服関係とか、キッチン関係が片付けやすいというから、やってみるか、と葉名は台所に行ってみた。

 洋服に関しては、こんなことになる前にも何度かやってみたことがあるのだが、片付けやすいというわりには、何度も失敗していたからだ。

 だが、引き出しを開けた葉名はうなだれる。

 山のようなコンビニの使い捨てスプーンとフォークを見つけたからだ。

 うう。
 これ、捨てられないんだよな~。

 外で食べるとき以外は、出来るだけもらわないようにしているのだが、人と話しながらお買い物をしてたりすると、つい、うっかりもらってしまう。

 捨てるのももったいないしな~。

 かと言って、普段はステンレスか木製のスプーンを使っているし。

 わざわざこれを使っては捨てるというのももったいない。

 うーむ。
 なにかに使えないだろうか。

 いや、この、いつかなにかに使えないだろうかが、物を溜め込む原因だとわかっているのだが、つい考えてしまう。

 もったいない文化の中で育ってきた日本人には、物を捨てることは容易ではない。

 なのに、日本の家屋は収納できるスペースが少ないので、常に物を捨て続けなければならないという、この矛盾っ。

 ああでも、そうだっ。
 日本には、蔵というものがあった!

 そうだ、蔵を建てようっ!

 ――いや、何処にっ!?

 まで暴走したところで、正気に戻った。

 よし、……冷静になろう。

 やはり、この使い捨てスプーンは、なにかに活用すべきだ。

 一度でも使えば、気持ちよく捨てられるはず。

 捨てるべきものをひとつずつ活用していては、何年経っても片付かないとわかっているのに、やはりそう思ってしまう。

 だが、そういえば、高校のとき、使い捨てスプーンにチョコを流し固めて、カラフルに飾ったり、絵を描いたりして、友チョコとして配ったら、みんな可愛いと言ってくれた。

 そうだ。
 バレンタインに友チョコを配ろうっ!

 ――って、今、五月っ!

 葉名はもう此処は見なかったことにして、引き出しを閉めた。

 パウダービーズのときと一緒だ、と思いながら。




 しばらくすると、キッチンカウンターの上に置いていたスマホが鳴り出した。

 取るとすぐに、
『葉名、帰ったぞ』
と准の声がする。

 遅い時間に帰って行ったので、無事に着いたら、連絡くださいと言っておいたのだ。

『まだ起きてたか?
 なにしてた?』
とまるで、おやすみ前の恋人同士のような会話を准はしてくる。

 だが、葉名が、シンクの上を見ながら、
「お片づけしてました」
と言うと、案の定、

『寝ろ』
と言ってくる。

 いえ、おうちを整理すると、心も整理できると言うので、してみているのですが、どちらも出来そうにありません、と思っていると、准が訊いてきた。

『で、片付けは進んだのか?』

 うーむ。
 すぐに結果を求める困った社長だ、と思いながら、葉名は答える。

「いえ、捨てようとすると、どれを手にしても、走馬灯のように思い出が蘇りまして――」

『……死ぬ気か?』

「いえいえ。
 それで、今、ふきんとの思い出にひたっているところです」

『ふきんとの思い出ってなんだ……』

 いや、いろいろあるんですよ、と葉名は思う。

 買ったばかりのコートにホットミルクを引っ繰り返して、ああ、学校で牛乳こぼして拭いた雑巾みたいな匂いになったらどうしようと思いながら、濡れぶきんで拭いたとか――。

「まあ、そんなこんなで全然進まないので、途中で、心を落ち着けようと植物の方を眺めてみたり」
と言いながら、観葉植物とクマが飾ってある窓辺を見た葉名は、幹が編み込みのようになっているパキラを見ながらぼんやり呟く。

「……社長、パキラは編まれたいのでしょうかね?」

『寝ろ』



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