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いろいろと迷走中です
どっちみち、バレバレですよ
しおりを挟む……誰がお友だちだ、と思いながら、西和田は給湯室の前で二人の話を聞いていた。
あんなことを言ってはいたが、本当につぐみが英里にやられないだろうかとちょっと心配になって覗きに来たのだ。
しかし、なんだかんだで楽しそうにやってるな。
あの英里でさえ、つぐみのペースに巻き込まれて、いまいち本領発揮できないでいる。いや、小局様に本領発揮していただかなくていいのだが。
それにしても、専務に報告できない、どうでもいい情報ばかり入ってくるな、と思っていると、
「あれ? 西和田さん?」
と声がした。
見ると、何処かから、お茶を下げて来たらしい正美が立っていた。
別に覗いてたんじゃないぞ、というアピールのために、特に慌てることもなく、軽く頷いて、極自然に立ち去った。
……つもりだったが、効果があったかはわからない。
「西和田さんが外立って話聞いてましたよ」
とドアを開けた正美がお盆を手に振り返りながら言ってくる。
つぐみはまだ、英里に頬をひねられていた。
ええっ? と今更遅いのに、英里は慌てて手を放す。
「なんてことしてくれんのよ」
と英里がこっちに向かって言ってきた。
「見られてたらどうすんのよ」
「いや……いじめた人間に責任取れとか、どんなジャイアンですか」
「あんたの何処がいじめられてんのよ」
いじめられてるのは私の方よ、と英里は言い出す。
「ええーっ?」
「――とかデカイ声で言い返してきて、不満げな顔が出来る奴はいじめられてるうちに入らないわよっ」
しまいには、今日、お昼奢りなさいよ、と更に理不尽なことを言ってくるので、
「わかりましたよー。
奢りますよ。
それで、デスクに戻ったとき、西和田さんの前で、わざとらしく溜息ついて、どうした? って訊かれることにします」
と言ってやると、
「ほら、見なさいっ。
どっちがいじめてんのかわかんないじゃないのよっ」
と英里は言い出し、正美は笑っていた。
正美が近くにいい店が出来たというので、そこに三人で行くことになった。
割り勘で。
「西和田さんはなんであんたに構うのかしら?」
濃厚な魚介類のパスタを食べながら英里が言う。
相変わらずガッツリだな、とそれを見ながら、
「駄目な子ほど可愛いって言うじゃないですか。
英里さんも、駄目な子になったらいいじゃないですか」
と言うと、
「えっ。嫌よ。
あんたみたいな、満足に客にお茶も出せない落ちこぼれになるなんて」
と言ってくる。
タルタルソース、頭からかけちゃおっかな~っと思いながら、タルタルソースを器から白身魚のフライにかけていると、
「そういえば、ねえ、あんたの彼氏ってどんなの?」
と唐突に英里が訊いてきた。
「ええー? 喧嘩売ってくる人には教えませんよー」
「どうせ、たいしたことないんでしょ」
「いや、びっくりするくらい格好いいですよ」
と思わず対抗して言ってしまったが、胡散臭げに見られる。
「でも、性格はちょっと凶悪ですかね。
人の話、全然聞かないし」
「いや、あんた……、なんでそんなのと付き合ってるのよ」
「いや、付き合うとか言った覚えもないんですが」
「あー、あるわよね。
ずるずるとそういうことになるとき」
と正美が珍しく相槌を打ってきた。
「でも、それで、上手くおさまってるのなら、相性いいんじゃない?」
と正美に言われ、考える。
相性……いいだろうかな。
まあ、一緒にお酒呑んだりするのは楽しいし。
お料理もしてくれるし、お酒も作ってくれるし。
うーん、と目を閉じ、唸り、
「襲いかかってこないのなら、特に問題ないですかね」
と呟いて、
「……ねえ、あんた、なんのために、その人と一緒に居るの?」
と言われてしまった。
「あ、社長」
そのとき、いきなり、正美がつぐみの後ろを見て声を上げた。
ええっ? と振り返ると、渋い顔をした奏汰が立ち上がり、こちらに来るところだった。
西和田も一緒で、苦笑いしている。
い、居たのか。
誰だ。
あんなところにデカイ観葉植物なんぞ置きやがったのは、と思いながら、三人で、
「お、お疲れさまですー」
と頭を下げると、奏汰はなにも言わずに、下げ返してきた。
そのまま行ってしまう。
その後をついて行きながら、西和田が、阿呆か、という顔をして、こちらを見ていた。
「やだーっ。
西和田さんに聞かれちゃったーっ。
なんでこの店にしたのよ、正美ーっ」
「ええーっ?
英里さんが、此処いいわねって言ったんじゃないですかーっ」
二人は揉めているが。
いや、聞かれちゃったって、もともと、バレバレなので別にいいんじゃないでしょうか、と思っていた。
まあ、それを言うなら、こっちもバレバレなので別にいいような気も――
いいような気も、するんだが……。
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