眠らせ森の恋

菱沼あゆ

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いろいろと迷走中です

今日はなにをやらかした?

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「どうした。
 元気ないな」

 つぐみが職場でデスクに着くと、斜め前の西和田がすぐにそう訊いてきた。

「いやー、今朝は大失態です」

「ほうほう。
 なにをやらかしたんだ?」

「……なにウキウキしてるんですか。
 なにも専務に報告するようなことなどないですよ」
と言うと、そんなことはわかってる、と言う。

「純粋な興味だ」

 いや、そんなことに興味を持たないでください、と思いながらも、今朝の顛末を話すと、
「その計算間違いするソフトはいいな。
 他所の会社にバラ撒くとか」
と言い出した。

「何処に食いついてんですか」
と小声で話していると、

「ちょっと、秋名さん」
と少し離れた位置から、英里に呼ばれる。

 はーい、と立ち上がると、
「おっ。
 給湯室に小局こつぼね様から呼び出しか?」
と笑われた。

「なんですか。小局様って」

「上には上が居るから。
 あれはまだ、小局くらいだろ」
と西和田はボールペンの背で英里には見えないようにノートパソコンの陰から英里を差す。

「俺とコソコソ話してるから呼ばれたんだろ?」

「いや、わかってるのなら、話しかけないでくださいよ~」
と言いながら、怒られないうちに行こうと立ち上がる。


「もう~っ。
 なんなのよ、あんたっ。

 なにまた西和田さんとコソコソ話してるのよっ」

 給湯室で、予想通りの文句を英里は言ってきた。

「いやー、叱られてたんですよー。
 うらやましいなら、英里さんも叱られるようなことしたらいいじゃないですか」
と言って、あんた、莫迦じゃないのっ、と言われる。

「西和田さんに嫌われたら元も子もないでしょっ」

「そうですよ。
 だから、私が西和田さんと話してても、別に好かれてるわけじゃないんだからいいじゃないですか」

「でも、あんたと居るとなんか楽しそうなのよ、西和田さん」

 まあ、ある意味、楽しそうだな、と思う。

 今日はなにやって、社長を困らせた? とか実に楽しげに訊いてくる。

 最早、スパイうんぬんは関係なく、日々の楽しみとして訊いているような気がするのだが。

 しょうがないなあ、もう、と溜息をつき、つぐみは言った。

「いや、実は私がその――」

 思いついても、口に出すのは抵抗があったが、これ以上つつかれたくないので、口にする。

「つっ、付き合ってる人と西和田さんがお友だちなんですよ。
 それでです……」

「ああ、そうなの」
と英里は言った。

「それでいろいろあるわけか。
 でも、あんたの彼氏って誰なの?

 この会社の人?」
と訊かれたが、しゃ、社長のことを付き合ってる人とか言ってしまいましたよ、と動揺していると、

「ちょっと訊いてる?」
と頬をひねられる。

 いててててて、と思いながら、
「な、内緒ですっ」
と言うと、

「まあ、社内恋愛なら秘密にしといた方がいいわよ。
 破局したとき、あいたたたってなるからね」
と言ってきた。

 ……何故、破局すると決めつけますか。

「でも、あんた、半年でもう彼氏見つけたの?
 早いわよ。

 彼氏の友だちのイケメン、誰か紹介しなさいよ」

「あれ?
 西和田さんはどうしたんですか?」

「……上手く行かなかったときのためよ。
 いや、そのパターンはあまり考えたくないんだけどね」
と苦い顔をして、英里は言う。

 その顔を見ながら、少し笑い、
「可愛いですよね、英里さん」
と言って、

「だからなんで上から~っ?」
とまたひね切られた。

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