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いろいろと迷走中です
手抜きのカクテル
しおりを挟む危険だ。
危険な人だ、やはり。
今夜も早く寝かしつけなければっ。
つぐみは階段下のスペースにひっそり置いている、本の詰まった紙袋の前にしゃがみ込んでいた。
急いでページを捲る。
「つぐみ、ご飯」
「あっ、温めてありますーっ」
とつぐみは慌てて、その本を紙袋の上に伏せた。
つぐみがとととととっとあのいつも何処か不安定な走り方で走り去るのを奏汰は見た。
今、階段下から出て来たな、と思い、行ってみると、あの紙袋の上に本が一冊伏せてある。
『催眠術 ~あなたは段々、眠くなる~』
……おい。
つぐみの作った、程々美味しい食事をとっていると、つぐみがカウンターの辺りから、
「お酒はどうですか?」
とあの妙な笑顔を浮かべ、近づいてきた。
「さっき呑んだからいい」
そう素っ気なく言うと、ちぇっという顔をする。
すぐ思っていることが顔に出るつぐみを見ながら、こいつは暗殺者にはなれそうにないな、と思っていた。
「……俺がお前に作ってやろうか」
と言うと、えっ? とつぐみは嬉しそうな顔をする。
「そんな申し訳ない」
と言いながらも満面の笑みだ。
食事の途中で立ち上がると、つぐみは、
「いえいえ。
召し上がられたあとで結構ですよ」
と揉み手せんばかりに言ってきた。
「いや、いい。
その代わり、今日は手抜きで、もう出来てるカクテルな」
と言いながら、奏汰は大きなサングリアのボトルを取り出す。
オレンジやリンゴなどのフルーツを切り始めると、
「……全然手抜きじゃないじゃないですか」
とつぐみは、カウンターの向こう側から覗き込みながら、言ってきた。
「サングリアは本当はワインにフルーツを漬け込んで作るんだが、自宅で、アルコール度数の低い酒にフルーツを長く漬け込むと酒税法違反になるらしいから、雰囲気だ、雰囲気」
と言いながら、ほら、とつぐみに、目にも鮮やかな果物がたくさん入った赤い酒を出すと、つぐみの目が輝く。
なんでだろうな、と思っていた。
なにもさせない婚約者なのに。
ふと気づけば、その日、どんなに疲れていても、こいつに酒でも作ってやりたいな、と思ってしまう。
こうして、嬉しそうなつぐみの顔を見ると、ふっと一日緊張していたものが途切れて、楽になる感じがするからだろうか。
……繰り返し言わせてもらうが、キスひとつで、撲殺しようとする危険な婚約者なのに。
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