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眠らせ森の恋
奏汰の悪夢
しおりを挟む暑いな、と思いながらも、奏汰は家に帰ってもセーターを着ていた。
脱ぐとなにやら不安になるからだ。
セーターを着ているときだけ、つぐみがそこに居る感じがする。
いや、実際、そこに居るのだが、と奏汰はキッチンを見た。
だが、今、つぐみと目が合わせられない。
白河さんがすっかり元気になられたことを言うべきか否か。
言わない、という選択肢が自分にあることに驚きつつも、どうせ、すぐにつぐみの父親から伝わるだろうな、とは思っていた。
料理を並べ終わったつぐみがこちらを見、
「奏汰さん、汗掻いてらっしゃいますよ。ご自分が作られてお気に召されてるのかもしれませんが、かえって冷えてしまいますよ」
と言ってくる。
何処かずれてるな……と奏汰は思っていた。
俺が編んだからじゃなくて、お前が編んだから、着てるんだろうが。
だが、確かに、それを口に出したことはなかったな、と思っていた。
今も、来週末に白河に食事に招待されていることが言い出せない。
そこに行くときが、この同居生活の終わるときのような気がするからだ。
いっそ、つぐみを監禁してしまおうか。
もふもふの毛糸で両手をぐるぐる巻きにして――。
夢の中。
王冠もなく、かぼちゃパンツもなく。
塔を見上げていた奏汰は、蜘蛛の糸のように、するすると上から下りてきたふわふわの細い毛糸をぱちんと切ってみた。
上で、眠らせ森の姫が、ええっ!? と驚いている。
切ったら、自分も上へは行けないが、他の誰も彼女のところに行けないはずだから。
森の中に、王子だか、忍者だかわからない奴が潜んでるのを感じていた。
姫はまだ、ええっ!? という顔で自分見下ろしている。
そんなびっくり顔の彼女を見上げ、考えていた。
どうしたら、もう一度、王冠がこの手に入るだろうか。
姫の相手の証である王冠が――。
この眠らせ森の姫だか魔女だかわからない奴に、木の器に入った手製の酒でも差し入れてみようか?
……ところで、なんだか呼吸がしづらいぞ。
そんなおかしな夢を見たせいか。
昼間、暑いのに、セーターを脱がずに居たせいか。
悪い汗をかいて、風邪をひいた――。
おのれ、疫病神め。
熱にうなされながら、奏汰は思う。
誰だろうな、疫病神。
なんとなく、西和田が頭に浮かんだが、彼はなにもしてはいなかった。
あいつ、絶対、つぐみに気があるだろう。
許さん、と思う。
今まで、よく働いてくれる、いいスパイだと思っていたのに。
いや、いいスパイという言い方も変だが。
すると、疫病神はつぐみか?
確かに疫病神だ。
俺の静かな暮らしに入り込んできて。
いつの間にか、あいつなしでは暮らせなくなっている自分が居る――。
決して覗いてはなりません。
障子の向こうでつぐみが言う。
だが、開けて見ると、つぐみは毛糸でぐるぐる巻きになっていた。
この莫迦が、貸してみろっ、とその要領の悪さにイライラしてきて、勝手に奪って編んでいる間に、つぐみは消えていた。
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