53 / 58
眠らせ森の恋
夢か現か
なんだか立て続けに悪い夢を見た……。
ひんやりした手が額に触れて、奏汰は目を覚ました。
「凄い熱じゃないですか、奏汰さん」
つぐみが自分を覗き込んでいる。
「冷たいな、お前の手」
と言って握る。
冷たくて可哀想だと思ったからだ。
だが、つぐみは赤くなって俯き、
「全然冷たくないですよ。
奏汰さんがお熱があるからです」
と言う。
お熱って子どもか、と思いながら、起き上がろうとすると止められる。
「今日はお休みになった方がいいと思います。
風邪ですよ」
「いや、俺は風邪ひいたことのない人間だぞ。
ひくわけないじゃないか」
と言ったのだが、
「ひいてます」
とあっさり、つぐみは言ってくる。
「いや、俺がひくはずはない。
風邪は、精神がたるんでる奴がひくものだ」
「じゃあ、たるんでるんですよ」
こいつ、ぽあーっとした、いつでも小春日和な顔で容赦がないな。
「寝ててください。
西和田さんに連絡しておきますから」
と言うつぐみに、
「……西和田の連絡先を知っているのか」
と言うと、
「いつも秘書室にいらっしゃるじゃないですか」
と言う。
そういう意味か。
まぎらわしいんじゃ、ボケ。
「奏汰さん……」
なんだ? と言うと、
「思ってることが全部口から出てますよ」
と言われる。
うーん。
どの辺からだろうな。
今、お前、俺より西和田の方がいいんじゃないかとか思ったら、それもまた、全部口から出てしまうのだろうか。
いっそ、出したい気もしているが。
「咳とか出ませんね。
知恵熱ですかねー?」
とつぐみは言う。
「なんでだ……」
「いえ、初めて編み物なさったので」
頭を使い過ぎたのかと、と言う。
知恵熱か。
ある意味そうかもな、と思いながら、つぐみを見た。
女の一挙手一投足に振り回されるなんて初めてのことだから。
心配そうに自分を見るつぐみに言う。
「今日は休めない。
知ってるだろう?
支社長たちも今日の会議には集まるんだ。
どうしても行かないと」
「無理です。
と言いますか、今のまま、無様な姿をお見せするのは逆効果だと思いますが」
やはり容赦なくつぐみは言ってきた。
彼女は知っているからだ。
問題を起こして辞めた父親とその後を継いだ自分を快く思っていないものも支社長たちの中に居ることを。
つぐみは、だからこそ、そんな弱った姿は見せるな、と言う。
「わかった。
二時間で治す」
時計を確認し、
「今から寝るから、二時間遅れて行くと西和田たちに伝えてくれ」
と言うと、はい、とつぐみが言った気がするのだが、それが夢か現かさえ、もうよくわからなかった。
あなたにおすすめの小説
余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした
ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。
しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義!
そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。
「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」
仮面王の花嫁
松雪
恋愛
婚約者を腹違いの妹に奪われ、新しい相手も見つからず修道院に行く覚悟を決めたルチア。修道女となるため髪を切った日の夜、王城から「国王がルチアを妻に望んでいる」という書簡を持った使者がやって来た。
しかし、従兄弟であり恋仲だったニールが国王のせいで死に至った過去を持つルチアは、国王からの求婚を喜べずーー。
イケメンエリートは愛妻の下僕になりたがる(イケメンエリートシリーズ第四弾)
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
そのイケメンエリート軍団のキャップ的存在
唯一の既婚者、中山トオルの意外なお話
中山加恋(20歳)
二十歳でトオルの妻になる
何不自由ない新婚生活だが若さゆえ好奇心旺盛
中山トオル(32歳)
17歳の加恋に一目ぼれ
加恋の二十歳の誕生日に強引に結婚する
加恋を愛し過ぎるあまりたまに壊れる
会社では群を抜くほどの超エリートが、
愛してやまない加恋ちゃんに
振り回されたり落ち込まされたり…
そんなイケメンエリートの
ちょっと切なくて笑えるお話
【完結】孤高の皇帝は冷酷なはずなのに、王妃には甘過ぎです。
朝日みらい
恋愛
異国からやってきた第3王女のアリシアは、帝国の冷徹な皇帝カイゼルの元に王妃として迎えられた。しかし、冷酷な皇帝と呼ばれるカイゼルは周囲に心を許さず、心を閉ざしていた。しかし、アリシアのひたむきさと笑顔が、次第にカイゼルの心を溶かしていき――。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花*Q−73@文フリ東京5/4
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
遺産は一円も渡さない 〜強欲な夫と義実家に捨てられた私、真の相続人と手を組み全てを奪い返す~ (全10話)
スカッと文庫
恋愛
「お前の価値なんて、その遺産くらいしかないんだよ」
唯一の肉親だった祖父を亡くした夜、夫の健一と義母から放たれたのは、あまりにも無慈悲な言葉だった。
四十九日も待たず、祖父が遺した1億2000万円の遺産をアテに贅沢三昧を目論む夫。だが、彼には隠し通している「裏切り」があった――。
絶望の淵に立たされた由美の前に現れたのは、亡き祖父が差し向けた若き凄腕弁護士・蓮。
「おじい様は、すべてお見通しでしたよ」
明かされる衝撃の遺言内容。そして、強欲な夫たちを地獄へ叩き落とすための「相続条件」とは?
虐げられてきた妻による、一発逆転の遺産争奪&復讐劇がいま幕を開ける!