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雑木林の骨
そんな目で俺を見るな
しおりを挟む「そうですか」
と呟きながら、犬の遺骨を見下ろす琳も、自分と同じように考えている気がした。
「でも、きっと、ちゃんと大事に飼われてた犬ですよ。
それがなんでこんなところに埋められてるんですかね?」
「雑木林だからじゃないのか?」
「でも此処、この子たちの通学路なんです」
と琳は林の中、今自分たちが立っている落ち葉まみれの小道を指差す。
「この子たち、行き帰りに遊ぶので、この林の中、踏み荒らすんですよ。
此処らの人間なら、こんなところに愛犬埋めないですね。
此処に犬埋めた人は、土地勘のない人ですよ。
でも、それも変でしょう?
自分の大事な犬を縁もゆかりもない土地に埋めだなんて」
「じゃあ、迷子になって……」
そう言いかけ、自ら否定する。
「いや、違うか」
と将生は穴を見下ろした。
明らかに誰かが埋めた感じだった。
しかも、首輪が外され、少し離した場所に何故か隠すように埋められている。
鑑札も迷子札もないようだ。
犬の身許を隠すために、首輪ごと鑑札や迷子札を外したのか?
「誰かがうっかり、この犬をはねて、飼い犬だと気づいて慌てて埋めたとか」
「そんな人なら、はねてそのまま行っちゃいますよ。
相手は、人間じゃないんですから」
その言い方に、ん? と思った。
「……お前、もしや、人間も一緒に埋められてるとか思ってないか?」
「思ってますよ。
調べてみてくれませんか?」
と言う琳を胡散臭げに見ていると、琳は、
「お願いします、宝生さん」
とぐっと来るような瞳で、いつもより間近に自分を見上げてくる。
「宝生さん、私の推理が間違っていたら、なんでも――」
な、なんでもいうこと聞くとか? と勝手に先のセリフを妄想し、どきりとしていたが。
「なんでも、うちの店で好きな飲み物頼んでいいですよ」
「……いや、いまいち、やる気にならないんだが」
琳があまり店をあけていられないというので、みんなで戻ることになった。
子どもたちは、ご褒美にジュースをご馳走になるそうだ。
……俺にご褒美はないのか、雨宮、と思いながら、将生は琳の後ろをついて歩く。
先程の龍哉が子どもらの一団から少し距離を置いて歩いていると気づき、
「おい、小坊主」
と呼びかけてみた。
誰が小坊主だ、という顔で振り返る龍哉の目は、子どものくせに、妙に据わっている。
「お前、なんで、犬の骨から少し離れた位置を何ヶ所も掘ってみた?」
「師匠なら、そうするかなと思ったからだよ、おじさん」
喧嘩腰だな、と思ったが、最初に喧嘩を売ったのは、こちらのような気もしていた。
可愛い顔なのに落ち着き払っている龍哉を見て、いい男は子どもの頃から、いい男なんだなと思ってしまったからだ。
そして、一応、子どもなので、雨宮にベタベタできるポジションなのも気に入らない。
……と佐久間なら思うだろうな、と思い直しながら、将生が、
「師匠って誰だ?」
と訊くと、
「琳さんに決まってるだろ」
と龍哉は言う。
「……雨宮が?
なんの師匠だ」
「謎解きのだよ。
琳さん、昼間、再放送してる二時間ドラマの犯人もトリックもすぐに当てられるんだよ」
……待て。
それくらいなら、俺にでも当てられる。
「夜もたまに、琳さんとみんなでLINEしながら見てるんだ」
おい、小学生。
もうスマホ持ってんのか、と思いながらも、ちょっと混ざりたいな、と思ってしまった。
しかし、二時間ドラマの謎解きなんぞ、誰にでも出来そうだが。
こいつらも男だ。
あんな美人と一緒に謎解きをする、というのがいいんだろうな、と将生は思った。
自分も雨宮みたいな女が子どもの頃身近に居たら、こいつらみたいに崇拝してたかも……。
いや、もう大人だから、絶対にしないんだが……っ、と思いながら、将生は子どもたちと店に入って行く琳のすらりとした後ろ姿を眺めていた。
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