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見知らぬ客
また、現れました
しおりを挟むカウンターの上の木製のゲームは、まな板のように細長い木の板の上に三本の棒が突き立っていた。
左端の棒には、下の方が大きく、上に行くほど小さい、いくつもの薄い木の円盤が重ねられている。
「ハノイの塔ですか?」
「おっ、知ってるのか?」
意外そうにヒョウが言う。
「この円盤をルールにのっとって、移動してくパズルですよね」
最初、ひとつの棒に集められている円盤をルール通り別の棒に移し終えられたら完成だ。
「うちにもありましたよ。
小さい頃、おばあちゃんが買ってくれたんで」
ヒョウは折り畳まれていた説明書を読みながら言う。
「そうか。
やったことあるのか。
大丈夫か?
世界は滅びなかったか?」
とヒョウは笑う。
古代からあるインドの寺院には、64枚の黄金の円盤が重ねられているハノイの塔があって。
それらをすべて移動し終わったら、世界が滅びると言われている。
「今でも、僧侶たちが円盤を動かしているとかいう伝説ですね。
でもそれ、パズル作った人が考えた作り話だと思ってたんですけど」
「ニセモノの伝説もみんなが信じれば、チカラを持つのさ」
説明書をヒラヒラさせながら、ヒョウは言った。
「この玩具のハノイの塔が完成すると、世界が終わるらしいぞ。
今なら、大負けに負けて、1円だ」
「……いりませんよ、そんなモノ」
「お前はいらないかもしれないが。
お前が買わないと、別のやつが買って、完成させてしまうかもしれないぞ」
「おどしですか……?
っていうか、この店、いらないモノ売ってるって言ってたはずですが。
いらないモノ通り越して、物騒なモノ、売ってませんか?」
身を屈めてパズルを覗き込みながらそう言った菜乃の上から、誰かが、ひょいとパズルを持ち上げた。
「じゃあ、これください」
と人気のない廊下によく響く、低くていい声が真後ろからする。
長身のイケメン会長が真後ろに立っていた。
若い男性らしい汗臭さはなく、ほのかに、いい香りがする。
「お前が買ったら、一瞬で解きそうだな。
よし、売ったっ」
「はいっ。
わたし、買いますっ」
ヒョウのその言葉に、慌てて菜乃は手を上げた。
ヒョウは、ぷっ、と笑ったが、会長は真顔なままだった。
――この人、笑うこととかあるんだろうかな。
ちょっと怖い、と思いながら、菜乃は会長を見上げていた。
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