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見知らぬ客
見知らぬ客 後日譚――
しおりを挟む数日後の朝。
「ねえねえ、菜乃、知ってる?
友だちの友だちが言ってたんだけどさ」
と言いながら、スミ子が菜乃の机にやってきた。
『友だちの友だちが~』とかいうのは、大抵の都市伝説のはじまりだけど。
友だちの友だちのうち、最初に出てくる『友だち』の方すら、誰だかわからないことがほとんどなのが不思議だ……。
友だちのはずなのに、とか思いながら、菜乃はスミ子の話を聞く。
「旧校舎にさ。
赤い――」
とスミ子が言い出したので、赤い紙、白い紙の話かなと思ったが、違った。
「赤い腕時計をつけた花子さんが出るんだって。
赤以外の腕時計をしていると、トイレの中にひきずり込まれて、異世界に連れてかれるらしいよ」
……なんかいろいろ混ざってる。
っていうか、なぜ、みんな、トイレの向こうに異世界があると思うんだろうな。
などと考えていたとき、涼太が教室に飛び込んできた。
「おい、菜乃っ。
俺のテスト、返してくれっ」
「えっ? なんで?
うまく始末できたからよかったって言ってたじゃん」
小テストが返ってきたとき、案の定、点が悪かった涼太に、
「それ、ちょうだい」
と言うと、あっさり渡してくれたのだが。
涼太は今になって返せと言ってくる。
「ママ……おふくろに小テストがあったことがバレちゃってさ。
今すぐ持ってこいって怒ってるんだよっ」
「あっ、ごめん。
あれ、もう、欲しいって人にあげちゃった」
いや……人ではないんだが、と思いながら、菜乃はそう言った。
「ええ~っ?
100点のテストとかじゃないのに、いる人いるのかよっ?」
「あ、大丈夫だよ。
涼太の名前は消してあるからね。
もし、とり返したいのなら、4時44分に旧校舎の女子トイレに行くといいよ」
「4時44分!?
旧校舎!?
女子トイレ!?
行きたくないしっ。
そもそも、女子トイレ、入れるわけないだろっ!?」
まあ、行きたくない要素、満載だよね、と思いながら菜乃は、ひとつ提案してみた。
「そうだねー。
じゃあ、ママにその小テストのこと忘れてもらうとか?」
「おふくろに?」
と涼太はわざわざ、ママからおふくろに言いかえる。
「どうやってだよ」
「明日の漢字の小テストで満点をとったらいいんじゃない?
そしたら、きっと、前のテストのことは忘れるよ」
「いや、無理だろ。
明日だぞっ」
「大丈夫。
漢字テストだもん。
暗記するだけでしょ」
暗記するだけとか言うな、この優等生めっ、という、よくわからない罵りの言葉を受ける。
「付き合ってあげるよ。
放課後、旧校舎の空いてる教室で、吐くほど、漢字、書きなぐろうっ」
「それくらいなら、4時44分に女子トイレに行った方がマシだ~っ」
と涼太は叫んだ。
そんな涼太の後ろで、スミ子は今日も消しゴムを転がしている。
「赤い紙、青い紙とか。
赤い腕時計とか。
なんで、都市伝説には色ネタ多いんですかね?」
旧校舎前のグラウンドで、菜乃は会長にそんな話をする。
放課後、涼太は逃げたが、会長はやってきた。
日差しは強かったが、グラウンドの端は旧校舎の大きな影の中に入っているせいで、少し涼しかった。
「腕時計の話が増えたのは、お前のせいだろ」
今日は学校帰りなのか、会長は制服姿だった。
そんな会長を見上げて、菜乃がちょっと笑うと、どうした? ときかれる。
「いえ、もう来られないのかと思ってました。
テストを手に入れて、願いが叶ったから、成仏しちゃって、もう来ないのかなって」
と菜乃が笑うと、
「成仏って。
俺は生きてるが……」
と会長は渋い顔で言う。
出会ってから、この人の真面目な顔と渋い顔しか見てないな。
バカ笑いとかしないのかな、と菜乃は、いつも冷静な会長の端正な顔を見上げた。
「そういや、お前、中三だよな?
お前も受験生じゃないのか?」
どこ行くんだ? 高校、と問われる。
菜乃は苦笑いして答えた。
「一応、会長と同じ、秀峰高校なんですけど……」
「えっ?」
入れるのかっ? ときかれるかと思ったが、そうではなかった。
「お前、来年来るのか。
うちの学校にまで、おかしな都市伝説増やすなよ?」
「いやいや、赤い腕時計の話が増えたのは、たまたまですからね?」
そんな話をしながら、ふたりで旧校舎の地下に下りる。
またまた、なにか増えているだろう、購買部の『いらないモノ』を眺めに行った――。
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