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月末までに、お前を払ってもらおう
海中ヴィラに泊まります
しおりを挟むあまり得意でないヘリなのに、乗り込み、扉が閉まった瞬間、安心してしまった。
扉が閉まっているというだけで、なんという安心感っ。
調子に乗った真珠は、いつもならあまり覗かない下を覗いてみた。
今日のドバイは霧もなく、カラフルな光の洪水のようなドバイの街がよく見える。
「わあ」
と真珠は思わず、声をもらした。
海上にはヤシの木のような人工島、パーム・ジュメイラが光り輝いている。
真珠たちの乗ったヘリはドバイ上空を少し遊覧したあとで、まだ建設中のザ・ワールドに着陸した。
桔平が友人に借りたというのは、ザ・ワールドにある海中ヴィラ、海に浮かぶ家だった。
海上に二階、海中に一階あり。
海中には、ベッドルームやバスルームもある。
家浮いてるな~、……ほんとうに。
流されないよう、何軒かの住宅がユニットになって浮かんでいるが。
それぞれの家で視線が合わないよう、工夫されて配置されているようだった。
「下に下りてみるか」
と桔平が言う。
ペルシャ湾の海中にあるベッドルームはガラス張りで。
たくさんのカラフルな魚が行き交うのを眺めながら眠れるようだった。
……でも、いきなり人が覗いてきそうで怖いな。
真珠の頭の中では、水族館で巨大水槽の中にスタッフの人が現れるのと同じ感じに誰かが泳いできていた。
手には謎のプラカードを持っている。
ドッキリです、とか、夢です、とか書いてありそうだな。
なにもかもが現実とは思えないもんな、と思ったとき、桔平が言った。
「疲れたろう。
少しゆっくりしろ。
俺は明日途中で抜けるための手筈を整えてくる。
まあ、侑李がちゃんとやってくれているとは思うが」
真珠ひとりを寝室に置いて、階段を上がっていく桔平に、
「すみません」
と真珠は頭を下げた。
真珠の案内のために無理して時間をとってくれたようだったからだ。
名ばかりの妻なのに、申し訳ないな、と思いながら、真珠はベッドに腰かけ、目の前を行ったり来たりする魚たちを眺める。
ああ、そうだと思い、スマホを取り出した。
通じないかと思ったが、電波はちゃんと届いていた。
真珠は佳苗にメッセージを入れることにした。
前回の返事、短すぎたな、と思ったからだ。
「みなさん、お元気ですか?
こっちはなんとか元気にやっています」
写真も送ってみた。
さっきのレストランで撮った魚と、今、目の前にいる魚の写真だ。
……魚ばっかりになってしまったな、と思ったとき、桔平が戻ってくる。
「なにしてたんだ?」
と問われた真珠は
「魚見てました」
と答えた。
「不思議ですよね。
ドバイって、ビルと砂漠の街のイメージだったのに、何故か魚ばかり見ています」
そう言いながら、結局、また魚を眺めていると、桔平が横に腰かけてきた。
なんとなく横にずれると、
「……何故逃げる」
と言われる。
いや、私は何故、側に来るんですかと訊きたいですが……と更に移動しようとして、腕をつかまれた。
「け、警察を呼びますよっ」
なんとなく身の危険を感じ、思わずそう叫んだが、桔平は冷静に、
「お前、ここの警察、何番にかけたら来るのか知ってるのか?」
と言ってくる。
「えっ?」
そういえばっ、と真珠はスマホで調べようとしたが、スマホをつかむ前に払われる。
あっ、と床に転がるスマホを拾おうとして、抱きとめられた。
「な、なにするんですかっ。
け……」
警察は呼べないな、と思った真珠は、
「なにかを呼びますよっ」
と叫んだ。
だが、案の定、
「……なにかってなんだ」
と言われてしまう。
「なにか……」
真珠は周囲を見回す。
ちょうどサメがこちらに向かってくるところだった。
今、呼んだら来そうなの、あれぐらいなんだが……。
桔平に腕をつかまれたまま、真珠は妄想の中で、手を叩いてサメを呼ぶ。
サメがガラスを突き破ってやってきた。
真珠の視線から、その妄想を読んだのか、抜群のタイミングで桔平が言ってくる。
「それだとお前も死ぬから」
「……ですよね」
そもそもサメに食われる前に、海水入ってきて沈んじゃうよね。
っていうか、このサメ、慣らしてるわけでもないから、手を叩いても来ないよね。
来るのは、彼か彼女にとって、我々が美味しそうに見えたときだけだろう。
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