ご先祖さまの証文のせいで、ホテル王と結婚させられ、ドバイに行きました

菱沼あゆ

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月末までに、お前を払ってもらおう

知りたいことはなんだ

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「お前は俺の妻だからな。
 訊けばなんでも教えてやるぞ。

 なにが知りたい?
 俺の生年月日か?」

 それは釣書にあるのでは。

「口座番号か?
 暗証番号か?
 出席番号か?」

 ……出席番号はいらないですかね。

 っていうか、いつの出席番号なんですか。

 何年生のですか、と思う真珠は気づいていなかったが、実は、桔平もテンパっていた。

 間近に自分をじっと見つめる真珠を見て、どうしていいかわからなくなっていたのだが。

 あまり表情に出ない男なので、真珠には伝わっていなかった。

 二人はベッドの上で無言で見つめ合っていた。

 そもそも真珠はなにも考えていなかったので、を上げたのは、桔平の方だった。

 桔平はベッドから降り、
「わかった。
 今日はサメも見ていることだし、許してやろう」
と言う。

 今、サメいませんよ、とアクリルガラスの方を見ながら真珠は思っていたが。

 いませんよと言ったら、いないので襲ってください、と言っている感じになってしまうので、黙った。

「俺は明日、朝早いから、お前、寝ててもいいぞ。
 昼、迎えに来る」
と言って出ていこうとする。

「一緒に帰りますよ。
 ヘリ、二度手間になりますし。

 ……あの」

 桔平がドアのところで振り返る。

「あの、スーク楽しみにしてますね」

 無理に時間を空けてもらったのだからと思い、礼を言うと、桔平は一瞬、すごく嬉しそうに笑いかけてやめた。

「いや、俺も久しぶりに行ってみたかったからな。
 ついでだ」

 じゃあ、と言って行ってしまう。

 桔平は隣のベッドルームに行ったようだ。

 なんだったんだろうな。

 今の一瞬の少年のような笑顔。

 ……ずっとあんな顔しててくれたらいいのに。

 


 シャワーを浴びたあと、真珠は少しの灯りを残したまま、ベッドに入った。

 ぼんやり海中が見える。

 魚が行き交うのを眺めているうちに眠っていた。

 あの谷中の家の縁側に桔平と二人で腰かけていた。

 いつも朝顔がある場所に朝顔はなく、支柱には巨大な白い蕾がついた蔓が巻きついていた。

 夜になり、谷中の空がモルディブのような一面の星に覆われる。

 月光を浴びた蕾がゆっくりと花開いた。

 月下美人のようなその可憐な白い花の中には、おしべやめしべの代わりにサメの頭があった。

 せめて、鯛かマグロのおかしらだったらっ、と頭を抱える夢を見た。



 早朝、真珠たちはヘリで運ばれてきた朝食を海中に張り出したデッキで食べた。

 夢の話を桔平にすると、

「お前、それ、寝る前に見たものと話したことが全部混ざってるだけじゃないか。
 オリジナリティがないな。

 っていうか、その花から生えてたのが、鯛かマグロだったらどうするつもりなんだ。

 食うのか、まさかっ」
とさんざんに言われたが。

 でも、何故か桔平はちょっぴり嬉しそうだった。

 いや、煮ても焼いても美味しいですよ、鯛もマグロも、と思いながら、レモンのきいたパセリのサラダを食べる。

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