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酒呑童子④
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左腕に濃密な瘴気が宿り、一気に腕が重くなったカゲロウ。自身の妖力で跳ね返そうとするも、カゲロウの妖力では太刀打ち出来ずカゲロウは眉を顰めた。
「(瘴気にあてられたか)」
それでも左腕が動かないわけではない。カゲロウは力を振り絞りなんとか刀を構える。酒呑童子はそんなカゲロウを見て満足そうに笑った。
「次は右腕、右足、左足。お前の体に少しずつ俺の瘴気を宿らせて、最終的には俺が取り込んでやる。お前の妖力がじわじわと瘴気に吸われて弱っていく様を見ててやるぞ、カゲロウ」
酒呑童子は楽しそうに笑みを浮かべるが、カゲロウは真顔のまま口を開く。
「ああそう。やってみるといいさ、酒呑童子。間に合うかどうか分からないけどね」
「何?」
カゲロウは後ろから迫る別の気配を感じ取ると、うっすらと笑みを浮かべる。その気配は二体。どちらもよく知っている妖怪だった。
「(お館様、そしてアサヒの妖力だな。ということはナツメもいるのかな)」
妖力のないナツメの気配は感じ取れないが、アサヒと一緒なのは分かる。つまり三人がこちらに向かっている。そう分かっただけでも心強い。
認めたくないが、酒呑童子は自分一人では滅することができないと本能で悟っていたカゲロウは、ゲンドウとアサヒ、そしてナツメが来ることに自然と安心感を覚えた。
「何がおかしい?」
酒呑童子は様子が変わったカゲロウに眉を顰める。
「僕はまだまだだな、と。一人じゃ君を倒すことは出来ないのは認めるよ」
「は?なんだ、さも当たり前なことをいきなり」
酒呑童子は目を細め馬鹿にしたような表情を浮かべた。
「でも、君との違いは仲間が大勢いることだ。孤独じゃない。大昔、君が味わったことがもう一度起こるよ」
「何……?」
酒呑童子は過去を思い出す。仲間のいない自分は、仲間の多くいるサクナに敗れた。
酒呑童子はここに来て他の妖怪の気配を感じ目を見開く。
「この気配……来る」
知っている強力な妖力も気配が一体、そして覚えは無いがかなり強い妖力を持つ妖怪が一体こちらに近づいていることを知った酒呑童子は、分身を集め身構える。
カゲロウの後ろから現れたのは、黒い犬と銀色の狐。そして狐の面をつけた謎の人物。
「ぶあー!!やっと広いところでた!!おいアサヒ、お前なんで変な道ばっかり通るんだよー!!すっげー葉っぱついたじゃんもーー」
アサヒの上に乗っていたナツメは、隊服についた大量の葉を払いながら地面に降りる。アサヒは人型に戻ると、不満げな顔でナツメを見下ろした。
「うるせー、お前がこっちだあっちだって言うからその通りにしたんだろうが!葉っぱぐれーで文句言うなァ!」
アサヒはナツメに怒号を飛ばすと、今度は人化したゲンドウがその間に入る。
「こら、喧嘩はよすんじゃ……見てみろ、最悪の状況じゃぞ」
ゲンドウは酒呑童子の方を指差しさらに続ける。
「久しぶりじゃの、クソ餓鬼。どうした?そんなにひび割れた格好をしおって。色男が見る影もない」
ゲンドウがそう言って笑みを浮かべると、酒呑童子は分身を含めて全員が表情を歪ませ不気味な笑みを浮かべる。
「ゲンドウ……テメェこそ随分老けたじゃねーか、老いぼれ」
「(え、どこが?妖怪の老けの基準わからん)」
ナツメは不可解そうに酒呑童子を見て首を傾げた後、カゲロウを見つけると目を見開き慌てて駆け寄る。
「カゲロウ!!どうしたんだよその左腕、真っ黒じゃんか!!」
瘴気を視認できるナツメは、慌ててカゲロウの元に走り左腕に触れると、カゲロウの左腕に寄生した瘴気は瞬く間にナツメに吸い込まれていった。
「!?」
その様子を見た酒呑童子は目を見開き固まる。
左腕が軽くなったカゲロウは、指を動かし元通りになったことを確かめると笑みを浮かべた。
「ナツメ、ありがとう……ごめんね、油断しちゃってさ」
カゲロウはそう言ってナツメの頭を撫でると、アサヒはムスッとした表情を浮かべる。
「なぁーに油断してんだよ、馬鹿犬」
アサヒはベーっと舌を出して憎まれ口を叩くと、カゲロウは軽く溜息を吐いた。
「うるさいなー、あんな高度な分身までされちゃ、無傷でいられないって。アサヒ、お前も気をつけてくれよ」
カゲロウは酒呑童子の方を睨み、軽くなった左手で手を振る。
「ってことで、ごめんね酒呑童子。僕のこと、食べられそうにないみたいだよ」
酒呑童子はカゲロウの言葉に顔を歪めた後、瘴気を吸ったナツメに視線を移し口を開く。
「そこの弱そうなチビ、お前もしかしてニンゲンか?まるでサクナみてぇな技使うじゃねぇか」
瘴気を吸ったナツメを指差し表情を強張らせた酒呑童子。ナツメは問いかけに対して小さく頷く。
「初対面で弱そうなチビとか言うなよ……。人間だけど何?ていうか、お前が猫又を黒妖怪にしたやつ!?」
ナツメは酒呑童子を睨み付け、懐にしまっていた猫又を掴んで引っ張り出しそう問いかけるが、酒呑童子はそれに答えることなく爆速でナツメに襲い掛かる。
カゲロウとアサヒはそれにいち早く気付くと、素早くナツメの盾になってその攻撃を防いだ。
「う、うあぁ……速い……」
魂縛呪を使うと言う判断すらさせてもらえないほど素早い酒呑童子の攻撃に、ナツメは目を見開き猫又を抱えながら後退りをする。
「ナツメ、危ないから下がって」
カゲロウがそう言うも、分身した酒呑童子は一気にナツメを襲おうと瞬時に動く。
「っ、うわっ!?」
背後にも酒呑童子が二体迫るが、アサヒは強い妖力を放ちその二体を蹴り飛ばすと舌打ちをした。
「クソ、気色悪い瘴気出しやがって」
「アサヒ、よく直接触れられるね……」
漂う瘴気に害されること無く妖力を放ち続けるのも大変だと言うのに、酒呑童子が纏う濃い瘴気に触れても自身の瘴気でそれを跳ね返しているアサヒの強さに目を見開くカゲロウ。
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