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夜の散歩をしようか①
しおりを挟む俺の恋人はとにかく可愛い。
朝も昼も夜も可愛い。
朝は寝癖をつけながら寝ぼけ眼で「おはよう」といって、用意されたパンに沢山のジャムを塗って食べている。
ジャムを付けてパンを食べるのは憧れだったらしく、いくらでも付けていい、と言うと嬉しそうな顔をした。これがまた可愛い。
正直、喜ぶラインが低すぎるな、と思うぐらいに全てのことに嬉しそうにするが、生い立ちを考えると致し方ない。不遇な幼少期を送っていたからこそ、彼にとっては今の状況が全て夢のようらしい。
着替えが不慣れなのか、王都で着るような服の着方がイマイチわからないらしく、ボタンを掛け違えたり、ブローチの付け方がよく分かっていない。またなんともそれが可愛いのだが、本人に言うと「ばかにしてるんだっ」と言って頬を膨らませる。それがまた可愛い。
もちろんアスコットタイの結び方も分からないので、毎朝俺が結んでいるが、本人はそろそろ覚えたがっていた。
無論、俺はそんな恋人の世話をすることが嬉しいので、正直一生出来なくてもいいと思っているが。
昼は、俺が執務室で王都から回される書類に目を通してる間、一人で本を読むことが多い。孤児院には沢山の本があったため本が好きらしく、今でも全てのタイトルと内容を覚えているそうだ。
俺の私物の本も、どこに何が置いてあるかを暗記したようで正直驚く。この家に来て5日しか経たないというのに、これは完全に凡人の能力ではない。
学園で使う予定の教科書も、いつの間にか一通りは読み終えていた。バイト先はミスティルティン図書館の一角が良いのではないだろうか、と考えている。
時々、休憩時間にチェスを打つが、今のところ五勝三敗。正直なところ、チェスについては負け知らずと言って良いほど自信があったが、八回勝負をして三回も負けるとは思いもしなかった。
いつも勝った方の言うことを聞く、という賭けをしながら遊んでいるが、フィンは「パンケーキが食べたい」と言うだけ。この間気まぐれで作ってあげたパンケーキが美味しかったらしく、それしかお願いをしない。
そういう無欲なところもまた可愛いが、もっと我儘を言っても構わないのに、と思った。
夜は、一緒にお風呂に入ることが多い。いつもはシャワーで済ませていたが、フィンが来てからは、アネモネに頼んで大きな浴槽に泡風呂を用意するようになった。
フィンは泡風呂が大好きになり、楽しそうに入浴をする。泡を使って俺の髪に悪戯をするのが好きで、この間は少し長めの俺の前髪をオールバックにして額を露出させ、「おでこでた」と言って額にキスをしてくれた。可愛すぎてその後そのまま犯したが、俺は悪くない。
ただの作業だと思っていた入浴が、フィンが来てからは楽しみの一つになった。
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そんなこんなで六日目の夜。
フィンは明後日の入学式の準備をしていたようだが、突然顔を真っ青にして執務室にやってきた。
「り、リヒト……」
震えた声で俺の名前を呼ぶフィン。
「どうしたの?」
俺はペンを置いてフィンの方へ足を運び、とりあえずフィンを椅子に座らせる。
「にゅ、入学式の前に出す書類がぜんぶない……」
フィンは涙目で俺を見る。もう少しで涙が溢れるところを、俺は親指でぬぐい宥めた。
フィンの右手には、学園からの合格通知や必要書類が入っていたはずの封筒はあったが、中身は空っぽだったらしい。
「ちゃんとこっちには持ってきたの?」
「う、うん。この家に来た時に使っていたカバンに入ってた……はず?」
フィンは、記憶を思い返すように首を傾げる。
「自分でカバンにいれたのかな」
フィンは俺の質問を受けると、顔を真っ青にした。
「ううん、いとこが入れておいたって言うから、自分で入れてない」
いとこ、か。
確かフィンを孤児院から引き取って奴隷として雇った母方の姉の息子で、フィンと同い年だったはず。
アカシックレコードでは確かに“善人”として映ってたような気もするが……。詳しく掘り下げないと分からない。
「フィン、入る学園の名前はミネルウァで間違いないよね」
「うん、ミネルウァ・エクラ高等魔法学院だよ」
フィンが通う予定の学院は、実は王都でも三本指に入る格式高い優秀な学院。
貴族至上主義の「イデアル王都魔法学院」、高い戦闘能力と防御能力を持つ者を育成する「スレクトゥ騎士団養成学院」、そして貴族・庶民に関わらず優秀な者を受け入れ、地方特待生制度がある唯一の学院「ミネルウァ・エクラ高等魔法学院」はリヒトの母校でもあった。
フィンは、孤児院や奴隷を経ても入学できるほどの頭の良さがある。しかし問題なのは、受験までのプロセスだ。合格後の流れも説明してもらおうとも思ったが、アカシックレコードで記憶として視たほうがフィンの主観が入らない。
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