61 / 69
捨てられないもの④
しおりを挟むリヒトはリラの記憶の海を泳ぎ、過去を辿っていった。
---------------------------
「は?」
リラの家に役人が訪れ、ミラとその夫が魔物に殺された事実を聞かされる。
自分のコンプレックスを刺激する存在が消えたが、心は晴れない。だが悲しいわけでも、涙が出るわけでもなく、リラは淡々と話す。
「で、フィンを引き取れ、と?」
リラの言葉に役人は頷くが、リラは鼻で笑って首を横に振った。
フィンは何度も会ってるし、カインと遊ばせたこともある。もちろん、ミラが押しかけてくるから仕方なくだ。親族だろうと、嫌いな妹の子供なんてまっぴらごめんよ。
「嫌よ。うちも余裕がある訳じゃないの。……多少のお金は持たせるから、1番マシな孤児院にでも入れたらいいわ」
リラはそう言ってお金を渡し役人を追い返すと、深く溜息を吐いた。
「誰がミラの子供の世話なんてするもんですか。ここで私に虐められるより、孤児院の方がよっぽどマシでしょう」
場面は移り変わり、数年後。
フィンが12歳になった年に、孤児院に勤めるシスターがリラの元を訪れた。
「は?」
シスターの口から、「フィンが異常性癖を持つ金持ちの貴族に奴隷として買われそうだ」と告げられる。
北部の貴族の中でも、悪い噂が絶えない者にフィンは目を付けられてしまったようだ。あの顔だ、仕方がない。
「だから何よ。うちには関係ないわね。そんなに嫌なら貴方達が売るのをやめたらいいじゃない」
リラがそう提案すると、シスターは首を横に振る。どうやら最近金銭重視な経営者に変わったらしく、そうもいかないとのこと。金になるならフィンを今すぐにでも売ろうとしているため、慌ててリラの所に来たとシスターは訴えた。
親族であれば無条件かつ最優先で引き取ることが出来るらしい。
「まるで奴隷市場ね……」
リラは腕を組んで無表情で感想を述べた。
「母さん、フィンが可哀想だよ。うちに一緒に住まわせようよ」
偶然後ろで聞いていたカインが、悲しそうな表情でそう言う。流石に息子には弱いリラは、少し考える。
「……まあ、いくら嫌いでも、あの貴族のところに行かせるのは気分が悪いわね」
リラは大きく溜息を吐いた後、残っていた僅かな良心を振り絞るように、首を縦に振った。
シスターは心底嬉しそうにしていた。きっと今までフィンを大事に育てていたのだろう。
場面は移り変わり、フィンはリラの元へやってくる。
6年ぶりに会うフィンは、思ったよりも華奢で、そして昔よりもうんとミラにそっくりに成長していた。やっぱり、好きにはなれない。
「タダで住めるだなんて思ってないでしょうね。アンタはこの家で奴隷として働く事を条件に連れてきたの。きっちり働きなさいね」
リラは鼻で笑いながらフィンに伝えると、フィンは満面の笑みで口を開いた。
「はい!がんばりますっ!奴隷になります!」
純粋で無邪気。幼い頃のミラを見ているようだった。どんなに嫌味を言っても、全く意に介さない。気付いてないだけかも知れないが、それが腹立たしかった。
どんなに忙しくさせても、フィンは文句ひとつ言わずに働き続ける。同い年のカインが友達と遊んでいるというのに、それを羨ましがることもなく。
「そこはミラに似てないわね。ミラはあんたみたいに頑張らないから」
リラは遠目で、働くフィンの姿を見ながら呟く。
ミラはどちらかと言うと怠け者だった。いつも怒られるのは姉の私。どんなに頑張っても、愛嬌があって上手に生きるミラには敵わない。
だから私はミラが嫌いだ。羨ましくて、嫌いだ。
-------------------------
「信じがたいが、フィンが言ってたことは本当のようだな」
リヒトはリラから離れそう言うと、エリオットは「へぇ」と意外そうにリラを見た。
「本当だとしても、私がフィンを騙したことには変わりないわ。私はミラが嫌いで、その息子も嫌いなの」
リラはそう言い切って鼻で笑う。フィンは寂しそうに笑うが、それでもリラに対する思いは変わらなかった。
「ねぇ伯母さん、どうしてこんなことを……?」
核心をついたフィンの質問に、リラはカインを一瞬見てから口を開く。
394
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる