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捨てられないもの⑥
しおりを挟む王都の駅では、北部へと帰るリラとカインがホームで佇む。
それを見送るフィンは、到着した列車に乗り込むリラとカインを見て目を潤ませた。リヒトとエリオットは一歩後ろでその様子を見ている。
「あ、あの……気を付けてね」
フィンが涙を堪えながらそう言うと、カインも目を潤ませながら頷く。
「うん……なぁフィン。俺、まだお前の従兄弟でいていいか?」
カインは涙を堪えながら声を絞り出し、フィンに問いかける。
列車のベルが鳴り響く中、フィンはすぐに縦に何度も頷き、「当たり前だよ!」と叫んで泣きながら笑った。
カインは「そっか」と言って優しく微笑み、後ろにいたリヒトとエリオットに頭を下げる。
「…………」
リラは終始不貞腐れたような表情で、特に何も言わずにただカインの後ろで扉が閉まるのを待っていたが、思い出したように鞄を漁り、一冊の小さな手帳らしき物をフィンに投げ渡す。
「?」
「もう要らないから、アンタにあげるわ」
「えっ!?」
フィンは何を手渡したのかを聞こうとするが、その瞬間列車の扉は閉まり、どんどんと前に進んでいく。
カインは窓から必死にフィンに手を振り、フィンも追いかけながら手を振って、やがて列車の姿が見えなくなるまでホームの端に立っていた。
「息子はともかく、あの母親の拗らせっぷりはどうにもならないな」
エリオットは軽くため息を吐く。
「そうだな。だが……完全に良心が無かった訳ではないようだ」
リヒトはアカシックレコードで見たリラの記憶を思い出しながら、列車を眺め続けるフィンを愛おしそうに眺めた。
フィンはリヒトの元へ戻りつつ、リラから受け取った物を眺め首を傾げる。
「……これって」
少し古びた手帳の表紙に、“ミネルウァ・エクラ高等魔法学院 生徒手帳”と記載があり、フィンは目を見開きすぐに中身を確認した。
「!?」
そこには名前の欄に“ミラ・ルロワ”と書かれ、母親の顔写真が載っている。
フィンは「えぇ!?」と声を上げ驚愕した。
「お、お母さんの生徒手帳だ!」
フィンは慌ててリヒトとエリオットにそれを見せると、エリオットは興味深そうにそれを眺めた。
「おぉ、一昔前のデザインの生徒手帳じゃないか。ルロワは母親の旧姓か(本当にフィン君にそっくりだな)」
「はい!何でこれを伯母様が持ってたんだろう……」
フィンは疑問に思いつつも、嬉しそうに生徒手帳のページを捲る。友人が多かったのか、真っ白なページには様々な落書きがあり、ミラは好かれていた事が窺えた。
「嫌いと言いつつも、妹の生徒手帳を大事に持ち歩くなんて、本当に意味が分からない女だ」
リヒトは首を傾げると、フィンも首を傾げる。
「伯母様、ずっと持ってたのかな」
「……捨てられなかったのかもしれないね。君がカインからもらった石のように。理由は分からないが」
フィンはリヒトの言葉を聞くと、生徒手帳をじっと眺めながら、リラの気持ちを少し理解してニコッと微笑んだ。
どういう経緯でリラはこの生徒手帳を受け取り、そして持ち歩いていたのか。それは分からないが、あれだけ妬み嫌った妹の物を持っていたのには、誰にも語れないリラの複雑な想いがあったのかも知れない。
「エリオット。今回の件はご苦労だったな。貸しが出来た」
「いや、俺だって不正入学を事前に止められてよかったよ」
エリオットとリヒトが会話をしながら駅のホームを出る。フィンはリヒトのすぐ横をピッタリと歩きながら、ふと生徒手帳の最後のページを見た。
“永遠に愛してる リアム・ステラ”
「(お、お父さんの名前……!)」
フィンの顔色が一瞬変わったのを感じたリヒトは、チラッとフィンを見て首を傾げる。
「どうかしたの?フィン」
リヒトは優しい声色でフィンに問いかけるも、フィンは反射的に生徒手帳をパタンと閉じて「なんでもない」と言って首を横に振った。
フィンは両親の事をあまり知らないまま死別しているため、今日で少し両親の過去に触れることが出来た事が嬉しく、すこしはにかみながらミラの生徒手帳を鞄の中にしまう。
「……そうか。お昼は少し過ぎたけど、どっか寄り道してなんか食べてから帰ろうか」
リヒトがそう言ってフィンの手を取ると、エリオットはやはり驚きの顔をした。
「フィン君には随分優しいじゃないか。もう声のトーンが違うよな」
「当たり前だ。……お前もいくか?」
リヒトはエリオットを昼食に誘うと、エリオットはニカッと笑みを浮かべる。
「え?いいのか?じゃあフィン君、王都に住む庶民がよく行く居酒屋なんてどう?王都に来たからには、一等地二等地三等地ばっかりじゃなくて、そーゆー所にも行った方がいいよ」
エリオットは得意気に笑いながらフィンの方に視線を向けると、フィンは大きく頷く。
「行きたいです!」
リヒトは「居酒屋って……」と顔をひきつらせたが、フィンが行きたそうにしたので、仕方ないと呟き三人は居酒屋へと向かうのであった。
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