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一年生・冬の章/番外編
沈黙の帝国
しおりを挟む「アンチ・ローザリオンハウンドの一件から帝国は沈黙を続けているのか?」
王族特務の任務を終えたリヒトは、アレクサンダーと雑談がてらお茶をしていた。王国にスパイが潜り込んでおり、ライトニングが雷に耐性のある合成獣と戦って瀕死状態になった一件は、表向きには伏せられているが、王宮の中ではかなりの一大事として王族特務は何度も召集されている。
「帝国の総帥には王から直々に抗議文を送ったが、だんまりだよ。こっちはライトニングが危うく死にかけた。ローザ・モリス……あぁ、今はモリス家ではないか。ローザの誘拐未遂も帝国側に抗議をしている。停戦中の愚行……よほど戦争がしたいみたいだ」
アレクサンダーは珍しく苛立った表情を浮かべ、乱暴にティーカップを置く。
「諸外国や同盟国に事の顛末は説明済みか?」
「もちろん、すぐに手配したさ。他の国も、うちと同様何かしらの干渉は受けていたらしい。東の大国・グンロンでさえな。いったい帝国は何を考えてんだ?世界大戦でもする気か?」
「だが、クラウスとシュトラウスの動き方は俺に対して個人的な恨みを晴らすためとしか思えないな。総帥が関与しているのか疑問だ」
クラウスもシュトラウスも、フィンを狙い始めている。それが一番リヒトに精神的ダメージを負わせることができるからだ。それはリヒトへの攻撃に等しい。
「どうだかな。まぁ、俺が帝国の総帥ならお前を潰すことを考えるよ。怖いもん。お前が本気で帝国を潰そうとすれば、傾国間違いなしだ。悔しいが、正直お前がこの国にいるだけで戦争の抑制になってる」
「ふっ……味方でよかったな」
リヒトは勝ち誇ったような笑みを浮かべて紅茶を飲んだ。
アレクサンダーは眉を顰め悔しそうに笑う。
「スパイの一人だったアウラ・ルーは帝国騎士団の諜報部隊だが、元々は帝国が占領した小国・ミンフロッドの奴隷だ。ミンフロッドは悲惨なもんだ。豊富な資源があるが軍事力が強くなかった。王族が真っ先に諦めて亡命したしな」
「俺が仮に死んでも、この国は強いと思うが」
リヒトは窓からの景色を眺めながらぽつりと呟く。
「お前がいるならこの国は大丈夫だろ、アレク」
続けて発した言葉に、アレクサンダーは目を見開いた後嬉しそうにはにかんだ。
「まぁな。……そういえば、エルラーグにもこの間手紙を送った。ちょうど調査が終わったのもあって、飛んで帰ってくるってさ。お前にも会いたがってるよ」
長期間公務に出ている第二王子・エルラーグにも文を送っていたアレクサンダーは、小さく笑みを見せた。
「エルラーグか。随分と長く国から離れていたな。出発前はやたらとミスティルティンのエリアBに立ち寄ってたから、古代文明の調査も同時にやっていただろうが」
「今回の公務はエルラーグが適任だったからな。ついでに修行もするって言ってたぞ」
リヒトは学生時代を思い出す。一期下のエルラーグもアレクサンダーを追ってミネルウァに入学したため、何かと関わることが多かった。
「エルラーグはかなりの畜雷の性質があったが、持て余していた。それをリヒト、お前が古代魔法で身体能力を上げる方法があることを教えてから、効率よくそれを生かせるようになった。アイツはお前を師匠だと思ってるぜ」
「やめろ……勝手に弟子を増やすな。それに、雑談程度にアドバイスしただけだろ。あれ以来エルラーグは自分で努力していた」
エルラーグは他の兄弟と違って体から高火力を保ったまま遠くに雷を放すことは向いていないが、エネルギーを細かく伝達させることに長けていることに気付いたリヒトは、近接向けの使い方が一番性に合っていることをアドバイスしていた。
「エルラーグは努力家だもんな~。お前そういう子好きだろ」
「別に……」
リヒトは迷惑そうに顔を顰める。
アレクサンダーは楽しそうに笑った後、思い出したように「そうだ」と呟き指を鳴らして報告書をリヒトに渡した。
「この報告書を読んでみろ。ディディエが持っていた情報をまとめた」
二重スパイをしていたディディエは、現在幽閉されている。妹であるアリアの延命がリヒト達によって行われていることを知って、完全に王国に服従すると誓った様子。
「……」
リヒトは報告書に目を通す。
「シュトラウスとクラウスは実の兄弟で、帝国軍の生まれじゃない……?」
「そう。しかも、元々はローザリオンの民だったかもしれない。北部のノルトハイム子爵家という貴族を知っているか?あまりいい噂は聞かないが、そこの先代はかなり女癖が悪くてあちこちに子供を作っていたらしい。その子供の行方を辿ると、2人、消息が掴めないんだ」
リヒトは眉を顰め溜息を吐く。帝国らしい卑劣な手だと苛立ちを隠せなかった。
「ローザリオンの民を拉致して、帝国軍に服従させたということか。子供であれば洗脳もできる」
「シュトラウスが10歳、クラウスが5歳の時に拉致された可能性が高い。問題なのは、軍に脅されているのか、それとも自分の意思なのか……」
「どのみち敵は敵だ。一瞬も気は緩めない。停戦中とはいえこの状況だ。今まで以上に警戒はする」
----------------------------------
「クラウス」
帝国軍の大魔法師であるシュトラウスは、クラウスを呼びつけた。漆黒のロングヘアで、瞳には生気がない。帝国軍の黒と赤の軍服を着用し、真っ黒な杖を携えている。
「はい」
クラウスはグレーの髪を後ろに束ねてシュトラウスの前に現れた。
「ドラゴンの血が順応してきているか?」
「少量ずつ毎日注射してます。今の所問題ありません」
「私は適合しなかったが、お前は適合し始めている。リヒトを潰せば私達は自由だ、頼んだぞ」
シュトラウスは真顔でそう言った。クラウスの表情が曇る。
「だけど兄さん、リヒトを殺すのは不可能だ」
「今は兄と呼ぶな」
シュトラウスの冷ややかな声がクラウスの耳に刺さる。
クラウスは「申し訳ありません」と俯き加減で言った。
「帝国民になった瞬間から、私たちが生きるにはこれしかない。殺さずとも、戦闘不能にすればいいんだ。そのためのドラゴンの血だろう」
「……はい」
クラウスは小さく返事をした。
大魔法師様は運命の恋人を溺愛中。~魔法学院編~
END
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ご愛読ありがとうございました。
更新がまばらなのにも関わらず、たくさんの方に見ていただいて嬉しいのと申し訳ないのと…(汗)
シリーズ3作品目に続きます!
次回作のタイトルは
大魔法師様は運命の恋人を溺愛中。~魔法学院・卒業編~
となります!
発表までお待ちください。
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