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一年生・冬の章/番外編
お楽しみキャンディ“若返り味”⑨
しおりを挟む「フィン」
「?」
リヒトはフィンの両肩に手を乗せ、優しく微笑む。
「そろそろお別れだ」
リヒトは徐々に意識が遠のくのを感じた。お楽しみキャンディの効力が切れていく気配に、名残惜しい気持ちになる。
「リヒト……!」
フィンは涙を堪える。元に戻ることが嬉しい反面、切ない気持ちでいっぱいになった。
「俺にも愛おしいと思える存在ができるとはな。それが知れただけで、呼吸がうまくできる気がする」
リヒトはフィンの髪を撫でながら、親指で優しく柔らかな頬をなぞる。その感触を覚えておきたいと願いながら。
「さようなら、俺の愛しい人」
リヒトの瞳は優しく温かい。
「……!り、りひと」
フィンは涙声で必死に名前を呼び、リヒトの頬を優しく撫でて触れるだけのキスをする。リヒトは一瞬目を見開き、フィンを抱き寄せて耳元で囁いた。
「またすぐに会える。そうだろう?」
リヒトは目を細めて穏やかに微笑んでみせた。
「っ…うん、すぐ会える。すぐ会えるよ!」
フィンは大きく頷いてリヒトに抱きつく。
「愛してる」
リヒトの少年さが残った低い声は、フィンの耳奥で甘く響く。恐ろしいほど綺麗な碧眼は、可愛くて愛おしい恋人を映していた。
フィンは大粒の涙を流しながら「僕も」と小さく呟く。
その刹那、リヒトの体は煙に包まれた。そしてその煙が一瞬にして消えると大人のリヒトが姿を現す。目を閉じて眠っている様子だが、すぐに目を開けた。
フィンは溢れる涙を隠せず、思いっきりリヒトに抱きつく。
「うっうぅ、う、おかえり、リヒト」
フィンが泣きじゃくっている理由が分からず、リヒトは目を見開いた。
「フィン。ただいま……?」
リヒトは反射的に優しくフィンを抱きしめる。
「り“ひとお“おぉ”」
フィンは相当切ない気持ちになっている。
少年リヒトの「さようなら」が胸にこびり付いているのだ。
「どうしたんだフィン……何故そんなに泣いてる?」
リヒトは自分が若返った時の記憶を保持しておらず、目の前で泣くフィンの記憶を拾おうと手を伸ばす。しかしフィンは咄嗟にそれを避けた。
「……」
「う」
フィンはなぜか気まずそうに目を逸らす。
何か見られたくない記憶があるのだろか。リヒトは不審な目でじっと見つめた。
「なんで避けるんだ?」
フィンにまとわりつく視線。
「え、えと……その」
「見られたくないことでもしたの?」
「そ、そんなことは……リヒトはちゃんと赤ちゃんになってて、可愛かったよ」
「なら何故泣いていたの」
「それはーその……」
「?」
「16歳のリヒトと、お話ししまして……色々と……ごにょごにょ」
同じリヒトとは言え、少年リヒトとキスをしたことがバレると何か言われそうだとフィンは焦っている。少年リヒトが嫉妬をするのであれば、今目の前にいる大人リヒトだって嫉妬をするはずだ。
「16歳。徐々に成長するシステムだったのか」
16歳の自分であれば、とリヒトは考えた。目の前にいる運命の恋人を好きになることは必然で、フィンに対し何かしていることは明白。
リヒトは少しの沈黙の後、問答無用でフィンをとっ捕まえて額に触れた。
「わあああ!」
「隠し事はなしだよ」
「わあああ~ん!!!」
フィンは少し叫んだ後、諦めたように項垂れる。
リヒトは記憶の海を泳ぎ、何が起こったかを瞬時に理解した。
「……」
アカシックレコードから戻ったリヒトは、少しイラついた様子でフィンを睨む。じっとりとした執着の視線だ。過去の自分はフィンにキスをして愛を囁いていた。それに、フィンからも触れるだけのキスをしている。
「……やましいことがあったみたいだな」
「ひぅ」
フィンは怯える小動物のように縮こまった。
「はぁ。君ってやつは」
リヒトは小さく笑みを浮かべてフィンをソファに押し倒す。
「今の俺より、昔の俺の方が良かったか……?随分とよろしくやってたみたいだな。ん?」
リヒトはフィンの顔を掴んで無理矢理目を合わせる。
「そんなことないよぉ……」
フィンとしては過去も現在も未来も総じてリヒトなので、首を横に大きく振って無実を証明する。しかしリヒトは意地の悪い笑みを浮かべた。
「浮気だ」
リヒトは眉を顰めフィンの頬を掴み続ける。
「ち、違うもん!!!相手はリヒトだもん!!」
「今の俺ではない」
「でもリヒトだもん!!」
リヒトはしばらくフィンを睨んだ後、両手首を押さえつけてそのまま深く長いキスをした。
「んっ……」
過去の自分とフィンのキスを上書きするように、何度も丁寧に舌を絡めていく。フィンはビクビク震えながらそのキスを受け入れてぎゅうっと愛おしそうにリヒトを抱きしめた。
リヒトはゆっくりと唇を離す。蕩けた表情のフィンを見て、溜飲が下がった。
「過去の自分に嫉妬するなんて、みっともないな……」
落ち着きを取り戻したリヒトは、そう呟いてフィンを見つめる。フィンを膝に乗せて向かい合うような体勢になると、過去の自分が触れた箇所に触れていった。
「それで、フィン。ご褒美はあるよね?」
リヒトはフィンの服に手を入れながら目を細めニヤつく。過去の自分がしていないことをして、嫌がらせの報復をするのだ。
「はい……なんでもします」
これから起こることを察したフィンは、小さな声でそう言って顔を手で覆ったのであった。
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