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一年生・春の章
不機嫌な先生②
「っ!なにを……」
ジャスパーは慌てて手を振り払おうとするが、セオドアの力が予想以上に強く振り払う事が出来なかった。
「なんだーせんせ、俺のことそんなに気になってたんだ。しかも嫉妬してくれてたなんて」
セオドアはジャスパーの手首を掴みながら、もう一度手の甲に唇を落とす。手の甲に残るセオドアの唇の感触に、ジャスパーは胸を高鳴らせ少し顔を赤らめた。
「(かわいー、赤くなってる)」
セオドアはニヤニヤしながら、その手を自分の頬に持っていき、自身の頬を撫でるように触らせる。
「セルフなでなでー」
柔らかい肌の感触が直接伝わり、ジャスパーはまたもや動揺した表情を浮かべた。
「……っ教師で遊ぶな」
ジャスパーは手をグーにして抵抗すると、セオドアはパッと手を離してケラケラと笑い、また肘をつく。
「ねーねー。嫉妬したってことは、期待していいってこと?」
セオドアは満面の笑みでジャスパーに詰め寄り、唇が触れそうな距離まで詰めるも、ジャスパーは慌ててセオドアの肩を押して距離を取る。
「からかうのはやめろ。嫉妬などしないし、生徒に対してそんな感情は抱かない」
「ふーん」
突き放すなら今のうちだ、とジャスパーは迷うことなくそう言い放つが、セオドアは全く意に介さず笑みを浮かべてじっとジャスパーを見つめる。
「……今度はなんだ」
「素直じゃないところも可愛いよ」
「っ……」
ジャスパーは動揺した表情でセオドアへ目線をやると、やがて諦めたように深く溜め息を吐く。
「なんでもいいが、仕事をするから邪魔するな。いい加減帰れ」
「やだー。邪魔しないからいさせてよ」
「(いるだけで邪魔なんだが)」
ジャスパーは眉を顰めながらセオドアが遠くに置いた書類を引き寄せると、それに目を通し始めた。
セオドアはジャスパーの横顔をまじまじと眺めて、耳や手、背筋を眺める。
「せんせーってさ」
「……」
ジャスパーは反応せず、ペンを取り文字を書き始める。
「えっちしたことある?」
「っ」
ジャスパーは突拍子も無い質問に少し動揺するが、無視してそのまま文字を書く。
「ねー」
セオドアはトントンと肩を叩き、構って欲しそうに顔を近付けた。
「邪魔しないんじゃなかったのか?そんなこと聞いてどうする」
ジャスパーはギロッとセオドアを強く睨むも、セオドアは淡々と続けた。
「あのさー、俺したことないんだよね」
「だったらなんだ」
ジャスパーは目を閉じ溜め息を吐くと、からかうなという表情でセオドアを見る。
「俺さ、絶対せんせー以外としたくないからさ、もし下手だったらごめんねって思って」
セオドアは心から申し訳なさそうにそう言うと、ジャスパーはポカンとした表情を浮かべる。
「……何故私達がする前提で話を進めている?」
「俺が卒業したら生徒じゃなくなるし、そしたら付き合ってくれるでしょ?で、そうなったらえっちするじゃん?」
セオドアは人差し指を立て真顔でジャスパーに詰め寄るも、ジャスパーは眉を顰めるばかり。
「勝手に話を進めるな。子供のくせに生意気な」
「俺本気だよ?」
セオドアは余裕のある笑みを浮かべ、じっとジャスパーを見る。
「……」
「本気だから」
セオドアは、今度は真顔でジャスパーを見つめながらそう伝えると、ジャスパーは書類を机に置き、色々と思考を巡らせながら一度ペンを置いた。
「……何故私なんだ。他にいくらでもいるだろう」
小さく、低い声でそう問いかけるジャスパー。
セオドアは目を細め、ジャスパーを見つめながら迷わず口を開く。
「……どんなところが好き、っていう質問ならいくらでも答えるけどさー。先生の質問を答えるとしたら、“俺は先生じゃないとダメ”としか言いようがないかな」
「っ……」
セオドアは愛おしそうにジャスパーを見つめると、その愛が宿る視線の熱さに、ジャスパーは目が離せなくなった。
「……ねー。俺本気だからね?」
セオドアはジャスパーの肩に手を置くと、後ろに括られたジャスパーの深い緑色の髪を触るため手を這わせ、やがて優しく撫でる。
「おい……勝手に触るな」
「大人しくしてて、もうちょっとで帰るからさ」
ジャスパーの肩に顎を乗せ、髪の結び目を確認したセオドア。ジャスパーはじっと動かず、横目でその様子を見る。
「……この細いリボン、俺があげたやつだよね?」
ジャスパーはセオドアの質問に答えず、深い緑色の瞳を揺らして目を細めた。
セオドアは、家庭教師だった時のジャスパーに、冗談混じりでお菓子の箱に付いていたリボンで髪の毛を結った事がある。
ジャスパーは今でもそれで髪を結っていたのだ。
「俺が逆の立場だったら、同じ事するよ。だって好きだから。貰ったものは捨てられないし、ずっと身に付けたくなる」
セオドアは小さく微笑み、ジャスパーを見つめ「違う?」と問いかける。
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