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一年生・春の章
悪夢と夢占い①
しおりを挟む俺は昔から、夢を見ているときは「ああ、これは夢だ」とすぐ気付くことが出来た。至って普通の、何気ない日常的な夢でも、すぐに夢だと分かった。
学生の頃、とある令嬢が俺の夢に現れ、俺に愛を嘆いた。ずっと好きだったと囁かれ、俺はその令嬢にされるがまま服を脱がされた。
「リヒト様……大好きです」
夢だからどうでも良かったが、何故か途中で、とてつもない嫌悪感と吐き気がした。
だから俺は、令嬢を突き飛ばし、冷たい言葉を言い放つ。
「やめろ、気持ち悪い」
驚き悲しむ令嬢に対し、罪悪感は全く芽生えなかった。
それと同時に、俺は自分自身に絶望した。
夢の中ですら、誰かを愛すことが出来ないのか、と。
それから数日後、あの令嬢が特殊な魔法を使って俺の夢に現れていたと気付いた時、俺は嫌悪感でいっぱいになった。だが、そこまでして夢で俺と結ばれたかった令嬢の、他者を愛するという感覚が羨ましくもあった。
でも俺には、一生そんな相手が現れる事はない。
そう思っていたはずなのに、それでも俺は、誰かを愛せる、愛したいと心のどこかで願い、もがいた。その結果、イザックの別邸を改造して“愛”を待つという行動を起こした。
愛を知らないくせに、愛に飢えるなんて滑稽だとは分かっていても、俺は誰かを全力で愛したいと渇望したのだ。
そして、前触れもなく、“愛”は突然目の前に現れた。
一体どうすればそうなる?と聞きたくぐらいに、汚れたボロボロの雑巾のような服を纏った、小さなエルフ。所々怪我もしており、王都では見たことがない身なりだった。
それでも、愛らしい顔立ちと、曇りなき純粋な瞳を見た瞬間、俺は心臓が不自然に早まっていくのを感じた。
今まで器量の良い者を沢山見てきても何も感じなかったこの俺が、この小さなエルフから目が離せなくなるとは。
『きれい』
その小さなエルフは、俺を見て、純粋に言葉を発した。
その瞬間、顔に血液が集まっていく感覚を覚え、初めて俺は“嬉しい”と思ってしまった。
「(なんだ、この感覚)」
きっと一瞬、動揺した顔を浮かべてしまっただろう。今まで幾度となく言われてきた言葉なのに、このエルフに言われただけで、俺は舞い上がるぐらいに感情が昂ったのだ。
そして瞬時に気付いた。
これは恋だと。
----------------------------------
「フィン」
俺は青空の下、大きな広場にいるフィンを呼んだ。
そして、俺は違和感に気づいて瞬時に思う。
「(あ、これは夢か)」
夢でもフィンに会えるなんて、俺はとんでもなく贅沢だ。
「リヒトー!こっちこっち!」
フィンは満面の笑みで俺を手招きし、先に進もうと前へ走っていく。いつも外では付けさせている腕輪を、その時はしていなかったのが気がかりだが、夢だしまあいいだろうと特に何も言わなかった。
どうやら、王都の誕生祭を祝うパレードが開催されており、フィンと一緒に見に来た、という夢のようで、周囲には沢山のエルフ族でごった返している。
「そんなに走ると危ないよ、フィン」
「大丈夫だよ!」
フィンはそう言ってどんどん奥の方へ進む。
夢の中なのに、何故か不安になった俺は慌ててフィンを追いかけてその手を掴んだ。
「フィン、一緒に行こう」
きっと俺は不安な顔をしていただろう。しかし、握った手は別の者の手だと分かり、俺は慌ててフィンを探し回った。
「フィン、どこだ!」
夢の中だというのに、俺は必死になりフィンを探し回る。
途中、狭く暗い路地からフィンの叫び声が聞こえた俺は、慌ててその方向へ進み、杖を出して叫んだ。きっと今の俺は、酷い形相をしていると思う。
「フィン!」
「やだ、やめてっ!」
ある小さな建物から聞こえたフィンの声。俺は迷うことなく扉を蹴破り杖を向ける。
そこには、後ろから羽交い締めされ、ナイフを首に押し当てられたフィンが立っていた。
「リヒト……」
フィンは震える声で目を潤ませ、自分が命の危機にあることを感じ取り恐怖で身体を震わせていた。
俺は夢だということをすっかり忘れ、息を上げて怒りを露わにする。
「何が目的だ?その手を離せ」
俺は、フィンの命を狙う黒いローブの男に問いかけた。
「お前は、この少年を愛してるか?」
男は俺にそう問いかける。
「だったらなんだ」
リヒトの返事に、男は満足そうに笑みを浮かべ、思い切りフィンの首を切り裂く。
「フィン!」
リヒトは魔法で一気に男を殺すが、それでもフィンを助けるには遅かった。
首から血を流し横たわるフィンを見たリヒトは、夢だとは分かっていても激しい憎悪と後悔に苛まれ、その場に崩れるように膝をつく。
「フィン」
光を失った瞳、動くことのない身体、広がっていく血の海。
「り、ひ」
まだ少し意識があるのか、フィンは声を発して指をピクリと動かした。
「フィン」
俺はフィンの手を握り、情けないぐらいに涙を流しながら抱き上げた。
「りひ……と、ごめ……なさい」
きっとフィンは、俺を残して死ぬことに対し謝っている。俺がこれから、フィンを失った傷を背負って生きていくことを心配しているのだ。
「守ってあげられなくて、ごめん……ごめん、ごめん……」
俺はぎゅっとフィンの傷口を押さえながら、止まらない血液をただ見つめる事しかできない。
こんな悪夢、とっとと醒めてしまえと強く願うしかなかった。
「とってもたのしかった……だいすきだよ、リヒト……おねがい、もう、僕をわすれて」
フィンは小さく笑みを浮かべ涙ながらにそう言い残し、絶命する。もう二度と、愛らしい笑みを浮かべることもなく、可愛らしい声で俺を呼ぶこともない。
「忘れるなんて、無理だ……死なないでくれ、フィン」
やけにリアルな光景で、俺は泣きながら暫く呆然とするしかなかった。
「ふざけるな、こんな夢を見させるなんて」
俺は、フィンのそばに落ちている血だらけのナイフを握ると、自分の首に押し当てる。
夢だろうがなんだろうが、フィンのいない世界に何の価値があるのだろうか。
「頼む、俺を早くこの悪夢から解放してくれ!!!!!」
俺はそのまま、自分の首を切り裂いた。
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