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一年生・夏の章
忍び寄る影②
しおりを挟む「あいたっ」
「誰が煩悩だらけだよドアホ」
ルイはむすっとしながらも、もう片方のフィンの兎耳を優しく掴むと、セオドアと同じように撫で始める。
「あー、毛並みがいいな」
「なんか癖になる感触だな~」
ルイとセオドアはふにふにと兎耳を撫でて癒されているのか、ほわーっとした空気に包まれるフィン。
「くすぐったいよう、二人とも」
二人は尻尾を振りながらフィンの耳を触り、フィンはされるがまま触られ続け、ふにゃっと笑みを浮かべた。
「眼福……!」
「オオカミとネコに挟まれてるウサギ……可愛い!」
「あの高級な猫感がすごい。素敵すぎるっ」
「セオドア君に食べられたい!」
「白衣姿が最高すぎる!」
三人の絡みを見ていたファン達は、口々にそう呟いて目をハートにさせていた。
セオドアはそれに気付くと、手を上げ爪を立てる仕草で「がおーっ」と言い放ち周囲を沸かせる。
「「「きゃー!!!」」」
誰もが笑みを見せて喜ぶ姿に、セオドアは楽しそうに笑った後、ふとジャスパーを思い出した。
「(あ、こういう行動が嫉妬されちゃうってやつか?まぁ今は見てないだろうし……って、えぇ!?)」
セオドアはチラッと教室にある窓ガラスを見ると、そこには睨みを利かせるジャスパーの姿があり、セオドアと目が合うとすぐにその場から離れていった。
セオドアは心臓をバクバクさせながら固まり、口をぱくぱくさせる。
「(え、なんっ、なんで先生がー!?)」
セオドアはうろちょろと歩きながら頭を抱え、狼尻尾をだらんと垂らす。その様子をルイは訝しげに睨んだ。
「おい、あんま動くと魔法薬作ってる奴にぶつかるだろ。座っとけ」
ルイはセオドアの狼尻尾を乱暴に掴むと、セオドアは「うぉあ!」と素っ頓狂な声をあげ、フィンが大笑いをする。
「急に尻尾掴むなって!ビックリした!」
「わり。つい近くにあったから」
未だジャスパーを目にしたことでドキドキと心臓を鳴らすセオドアは、ルイの言う通りに席に着く。
「ルイ君、尻尾触っていーい?」
フィンはルイの猫尻尾を見て触りたそうな表情を浮かべると、ルイは目を細め背を向けた。
「……ほら。ちょっとだけな」
フィンはパァッと表情を明るくさせ、嬉しそうにルイの猫尻尾を両手でそっと掴み、毛並みに沿って優しく撫で始めた。
「わ、気持ちいいー!(確か猫って、尻尾の付け根のところトントンしたら気持ちいいんだっけ)」
フィンはそろーっと付け根あたりに手を伸ばすと、優しくトントンしてみせる。
「っっ!!」
ルイはゾワっと背筋を震わせ、少し顔を赤らめると、猫尻尾を大きく揺らしフィンの手を絡め取った。
「わっ」
「そこはダメだっつの。変身どころか再現性高めすぎた。普通に性感帯だ」
ルイは後悔した表情を浮かべ、クルッと向き直りフィンを見下ろす。
「せ、性感帯……ごめんね、ルイ君」
「いーよ。俺が調子乗って、イイもん作りすぎた」
フィンは真っ赤な顔で俯き謝ると、セオドアがフィンの前にふさふさの狼尻尾を差し出した。
「俺の尻尾もいかがー」
「!」
フィンはセオドアの狼尻尾を抱き締めるように触ると、右手をスッと差し出す。
「セオ君、おてー」
「!?」
セオドアは「仕方ない」と呟きながら右手をちょこんとフィンの手に乗せて笑みを見せた。
「わん」
「あはは!セオ君かわいいねー」
フィンは楽しそうにセオドアの頭を撫でると、ルイの方にも振り向き頭を撫でる。
「ルイ君もかわいいねー」
フィンに褒められた二人は、互いに目を見合わせる。
「一番可愛いのはフィンだろ」
「一番可愛いのはフィンちゃんだよね」
息ぴったりのセオドアとルイに、フィンはボケーっとした顔で目をぱちくりさせる。
「あ、そもそも俺、犬じゃなくて狼なんだけどな」
「ぶっ」
「あっ……!狼さんでしたか、えへへ」
セオドアの発言にフィンは照れ笑いを浮かべ、ルイは笑いを堪えるように机に突っ伏した。セオドアも同じように笑うが、教室を覗く“影”に気付くと、真顔になりその影を睨む。
「(今度は覗きかよ)」
ルイもその気配に気付き、ちらっとセオドアを見た。セオドアはコクリと頷き、スッと立ち上がって口を開く。
「あれー?三組のギュンター君!なぁに覗いてんの?授業サボりー?」
セオドアのわざとらしい大声に驚いた影は、周囲の注目を受けながらそそくさと逃げていった。
名前を知っているぞ、という遠回しの牽制をされたギュンターは、悔しそうにフードを深く被り何処かへと消える。
「おー、逃げ足早。これでしばらくちょっかいかけてこないでしょ」
「?」
フィンは不思議そうにその場面を見ると、セオドアはにこっと笑みを浮かべる。
「フィンちゃん、最近ずっと変な視線感じてたでしょ。その正体突き止めてるし、今牽制したからさ。しばらくは大丈夫だと思うよ」
「あ……え!?知ってたの?正体まで……」
驚くフィンに、セオドアはコクリと頷き眉を下げた。ルイはぽんぽんと肩を叩いて笑顔を見せる。
「心配すんな。俺らがどうにかすっから。そもそも、そーいうの口に出して相談してくれよ」
「でも僕よくわかってなくて。気のせいかなぁって思ってたから」
フィンは、困ったように笑みを浮かべ目を細める。庶民であり多くの魔力を持たないフィンは、貴族よりも疎い部分が多い。
二人はそんなフィンをカバーすべく水面下で動いていたことに、フィンは驚きを隠せなかった。
「ずっと黙ってた俺らも悪いか。正直、お前ここんとこ学校内で変な奴にストーカーされてたぞ」
「す、すとーかー?」
「何企んでるか知らねーけど、セオドアが今牽制したから暫く様子見ようかとは思う」
ルイはフィンに対し柔らかくそう言うが、その瞳の奥はまるで炎を宿しているかのような小さな怒りが宿っていた。
「ルイ、目こわいって」
セオドアが小さく笑みを浮かべながら指摘すると、ルイはハッとして我に戻る。
「悪い」
ルイは首を横に振って瞬きをした。
「僕、ストーカーされるようことしたのかな……?」
ストーカーをされているという事実に驚いたフィンは、俯きながら小さくそう呟く。
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