126 / 321
一年生・秋の章 <エスペランス祭>
愛しき教え子
しおりを挟む「さて、と」
セオドアが立ち上がると、ルイは時計を確認する。午後一発目の毒迷宮が始まるにはまだ早いと首を傾げた。
「セオ、もう行くのか?まだ出番までだいぶ時間あるだろ」
ルイがそう言って引き止めると、果物を頬張るフィンも大きく頷く。
「(リスみたい)」
セオドアは二人の背後に回り、ルイに肩を組みつつぷにぷにとフィンの頬を突いてから笑みを浮かべる。
「準備もあるし、ちょっと寄るとこあるから。また後で、出番前に俺に喝入れてくれな」
「……おう」
何となく察したルイはにっと笑うと小さく手を振った。
「セオ君またあとでねー!」
「あいよーん」
セオドアは満面の笑みで颯爽とその場を去っていき、セオドアはとある場所を目指した。
「っと、ここか?準備室って」
セオドアは誰かに呼びだされたのか、普段行かないような部屋の前に着くと首を傾げながらその部屋に入る。
中では古びた椅子に座るジャスパーが本を読んで待っていた。
「来たか」
ジャスパーはパタンと本を閉じると、小さなアンティークテーブルにそれを置いて眼鏡をかけ直した。
「せんせーからの呼び出しなんて照れちゃう」
セオドアはジャスパーの姿を確認すると、少し照れたような顔で笑みを浮かべジャスパーに近付いた。
「でも嬉しい」
セオドアは心底嬉しそうに目を細め、ジャスパーの前に片膝をついて愛おしそうに見上げた。少し古びた暗めのカーテンは閉められており、隙間から漏れた光がセオドアを優しく照らす。
「忙しいのに悪かった」
ジャスパーが背もたれから背中を話して前屈み気味でそう言うと、セオドアは小さく横に顔を振ってジャスパーの色白な手を取る。
「せんせーのためならいつでもどこでも行く」
セオドアは呼び出されたことがよっぽど嬉しいのか、にこにこしたままジャスパーを見上げる。
「ね、なんかあった?せんせーが俺呼び出すなんて正直ビックリしてるんだけど」
セオドアの問いかけに、ジャスパーはジッとセオドアの顔をしばらく見つめ、やがて口を開く。
「……少し、近くで顔が見たかっただけだ」
普段のジャスパーならばあまり言うことが無いセリフだが、今日は照れもせずすんなりとそう言って退ける。意外な返答に、セオドアは目を見開いて顔を赤くした。
「せんせ、俺の顔近くで見たいってだけで呼び出したの……!?」
セオドアはガバッと立ち上がり押し倒す勢いでジャスパーに詰め寄る。
「あ、あぁ。悪かったとは思ってる。だが最近、お前はめっきり放課後に私の執務室に来なくなったから、元気かと思ってな」
ジャスパーは照れ隠しに目を逸らし咳払いをすると、セオドアは目を輝かせジャスパーに抱き付いた。
「!?」
「なんだよもー、すげー嬉しいんだけど。ごめんね?準備で忙しくてさー。でも言ってくれたら飛んでったのに!」
セオドアは嬉しそうにそう言うと力一杯にジャスパーを抱きしめ続ける。
「私が無性に会いたがっていたような解釈はやめろ!っ、おい、お前なっ……力強すぎだ」
ジャスパーが顔を顰めながらそう言うと、セオドアはパッと手を離して申し訳無さそうに笑った。
「あはは、ごめんね。つい嬉しくてさ」
笑みを浮かべ続けるセオドアだが、ジャスパーはセオドアの顔色を間近で見るだけで寝不足なことに気付く。
うっすらと浮き出たクマと、疲労が溜まっているのかそれが無意識に表情に出ていた。
ジャスパーは杖を取り出し立ち上がると、ソファーに魔法をかけて一気に大きなベッドにして見せた。
「三十分寝ろ。それだけでも疲労はだいぶマシになる」
ジャスパーの提案にセオドアは目を見開く。
「えぇ!?急に何!?」
「疲れているのがバレバレだ。お前のことだ、どうせロクに寝ることなく毒迷宮に備えていたのだろう?」
ジャスパーの指摘が図星だったのか、セオドアは言葉に詰まり頬をかく。
「起こしてやるから寝なさい、ほら」
ジャスパーがポンポンとベッドを手で叩くと、セオドアは少し悩んでから頷いた。
「じゃあせんせー膝枕して」
「……」
普段なら断るジャスパーだが、そうでもしないと眠らなさそうだったため渋々ベッドに深く座り自身の太もも叩いた。
「来い」
「……!」
セオドアは無邪気にジャスパーの太ももに顔を埋めると、腰の抱きついたまま目を瞑った。
「このまま死んでもいいかも」
セオドアはそう言って目を瞑る。
「馬鹿なことを言うな」
ジャスパーは低く、それでいて相手を愛しむような優しいトーンでそう言うと、すぐに眠りに落ちたセオドアの頭を撫でた。
「……無理はするなよ、セオドア。私はもうお前が倒れる姿を見たくない」
眠るセオドアにささやかな本音を投げたジャスパーは、そっとセオドアの頬を撫でる。
「(せんせ、ありがとう)」
セオドアはうっすらと目を開け微笑むと、心の中でそう呟き再び目を閉じた。
305
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜
たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話
騎士団長とのじれったい不器用BL
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
もふもふ獣人に転生したら最愛の推しに溺愛されています
* ゆるゆ
BL
『もふもふ獣人転生』からタイトル変更しました!
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で息絶えそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
本編、完結済です。
魔法学校編、はじめました!
リクエストのお話や舞踏会編を読まなくても、本編→魔法学校編、でお話がつながるようにお書きしています。
リトとジゼの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
Youtube @BL小説動画 アカウントなくてもどなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
第12回BL大賞さまで奨励賞をいただきました。
読んでくださった方、応援してくださった皆さまのおかげです。ほんとうにありがとうございました!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる