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一年生・秋の章 <エスペランス祭>
郷愁花②
しおりを挟む「フォンゼルさん、デリカシーがないですね……」
シャオランは眉間に皺を寄せながら小さくそう言うと、セオドアはプッと吹き出す。
「いや、確かにすげー正論だよ。俺何カッコつけてんのって感じ。どう足掻いたって、あの時の俺には何も出来なかった。ただ自分の未熟さを後悔してたけど、今はそれを乗り越えて向き合って、すげー楽しく生きてると思う」
あの日あの瞬間が最悪でも、セオドアはそれを乗り越え、自分の気持ちに気付き、ジャスパーと会いたい一心で努力をし続けた。
「(勉強も頑張って、筋トレもして、栄養も摂って睡眠もとって、多少無理しても平気な体になってる。ちょっとやそっとの事でぶっ倒れてたまるかよ)」
セオドアは自分の努力に自信があるため、二人を抱えながらも勝気な笑みを浮かべ一歩一歩前に進んでいく。
「(もう昔みたいな“セオブタ”でもねぇし、フィンとルイに成績も追いついてきてる。せんせーに好きって言えたし、距離も縮まってるし、俺はそんな危なっかしい子供じゃないって、もう大人の男だって、せんせーにちゃんと見てもらわねーとな)」
セオドアはジャスパーの顔や声を思い出すと、一気に瞳に光を取り戻していく。
すると、徐々に筋肉が元に戻り始め、顔に血色が蘇り背が伸びていった。
抱えられた二人はそれを見て目を見開く。
「俺は、俺を変えてくれたひとに、俺は成長しただろ、もう心配ないぞって、この戦いで証明したいんだ(つーか、むちゃくちゃ褒められたい!)」
セオドアはそう言って目を細めて笑うと、完全に元に戻ったのか体が成長し二人を抱えるのが楽になったことに気づいた。
「元の姿に戻ってますね、セオドアさん」
シャオランがそう言うと、セオドアはしたり顔でシャオランを見る。
「見たか俺の精神力を!」
「ええ。郷愁花は強力な作用をもたらすのに、薬無しで戻るとはさすがですよ」
「ちぇっ」
フォンゼルはすぐに元に戻ってしまったセオドアを見て面白くなさそうに口を尖らす。
「……セオドア」
会場のジャスパーは、誰にも聞こえない声でそう呟くと、教師としての表情ではなく、まるで誰かを強く想う切なげな表情を浮かべた。
セオドアはジャスパーに弱音を吐かない。毒迷宮に選ばれていることも、副学長であるエリオットからの通達で知らされた。セオドアは愛を囁くことは多いが、ジャスパーを心配させるような内容は語ることはなかったのだ。
「(私はもう、お前を心配する資格なんてないのに、それでも……)」
セオドアが倒れ、セオドアの父と母から家庭教師を解任された日。あの日から数日後、セオドアの必死の働きかけのおかげなのか、フルニエ家からの使いが一度ジャスパーの元へ訪れたことがあった。
内容は謝罪をさせてくれといった内容だった。
おそらくセオドアが、倒れたのは自分のせいであってジャスパーのせいではないと訴えたからであろう。
しかしジャスパーは、それを断り自分のせいだと言って、無礼とは分かっていたがフルニエ家の使いを帰した。
それは、セオドアの異変にもっと早く気付けなかった自分を戒めるためでもあり、そして徐々にセオドアに惹かれていた自分の心を抑え付けるためでもあった。
しかし、時が経ちセオドアは当時よりもしっかりとした体つきと血色感のある顔でジャスパーの目の前に現れ、久しぶりに対面した時は安心したことを覚えている。
セオドアが一時の感情に流されないよう、ジャスパーから線を引いてもセオドアはそれを簡単に飛び越え、ジャスパーはそれを受け入れて始めていた。
口付けを交わしたあの日、ジャスパーはどう考えても自分がセオドアを好きだと思わざるを得ないところまで心が動かされ、自然と目で追ってしまうことが増えている。
「(セオドア……願わくば、この三年間だけでも、私に見守らせてくれ)」
誰かを心配する気持ちは特別だ。その気持ちをどうか受け入れて欲しいと、自分の目の届くこの学校という空間で、ジャスパーはひっそりとセオドアに思いを馳せた。
「で、お前らはなんで元に戻らないんだろうなぁ」
セオドアは抱えてる二人を見ながら首を傾げる。
「小さな子供の時は何も考えず生きてこれたのに、大きくなっていくと色々と面倒なことばかり起こるからでしょうね」
シャオランは小さな体で大人びた言葉を紡ぐと、フォンゼルがニヤけながら口を開いた。
「おさげくぅーん、ウソはあかんでウソは。どうせその姿、おねしょして泣いた日とかやろ?戻れるなら戻って防ぎたいとかやろ?」
フォンゼルのからかい混じりの指摘に、シャオランが顔を赤くして目を見開く。
「そんなデタラメ言うのやめてもらえます!?」
「あっはっは!怒ったぁ、おこりんぼ~さんやねぇ」
「(俺の腕の中で喧嘩すんなよ……)」
セオドアは両脇に二人を抱えながら眉間に皺を寄せた。
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