306 / 321
一年生・冬の章
みんなの特別授業①
しおりを挟む「あ、あの……!」
ギュンターは震える声を精一杯振り絞り俯きながら立ち上がる。とは言え、図書室で大声を荒げれば目立ってしまうことは明らか。4人が揃った時点でただでさえ目立つ状況となったため、ルイは立ち上がりギュンターの肩に優しく手を置いた。
「少し目立つから、個室に入るか。ここじゃ食事は禁止だからな」
ルイはフィンが持ってきた大量のおやつを指差し呆れた表情を浮かべる。
「えへへ…」
フィンは申し訳なさそうに照れ笑いを浮かべた。
4人は6人掛けのテーブルがある個室に入り、フィンは優雅に紅茶をいれている。キラキラと輝く黄金のそれはジャスミンだろうか、とギュンターはその様子をぼーっと眺めた。
そして、ふと入学式を思い出す。
フィン・ステラが代表挨拶を務めていたあの光景は忘れることはない。周囲を魅了する品があり愛らしい顔立ちと、紡がれる言葉に引き込まれた。一体どこの貴族だろうかと騒ぎになったが、一般庶民と聞いた時には唖然とした。それと同時に強い憧れを持った。聡明さに血筋は関係が無いのだ。
知的で明るく、容姿端麗な少年。それとは正反対な自分。没落寸前とは言え貴族としての教育を受けたはずなのに、学力が到底及ばない。フィンは、気付けば南の大貴族ルイ・リシャール、王族特務の叔父を持つ王都の伯爵家セオドア・フルニエと友情を築いている。それに、フィンの後見人はあの大貴族であり王族特務を務める稀代の天才魔術師、リヒト・シュヴァリエという噂も流れていた。
すごい人物に会うと、もはや嫉妬という感情は生まれない。あるのは強い憧れと、自分はそうはなれないという劣等感だ。やっとの思いで入学した名門だが、入ってみれば自分はいたって凡人なのだと痛いほど感じてしまう。
それでも自分なりに頑張ろうと思った先に、あの事件が起こった。記憶はうっすらとある。そして、自分の心の弱さも一つの原因だと理解していた。
「あの、どうぞ、ギュンターくん。あっ!ギュンターくんって、呼んでも良いですか……?馴れ馴れしいかな」
フィンはボーッとしているギュンターに紅茶を差し出し、柔らかい笑みを浮かべたと思うと、呼び方に悩み焦った表情を浮かべる。
「っあ、はい、その……えっと。ありがとうございます!名前を呼んでもらう日が来るなんて思いませんでした、嬉しいです」
ギュンターはガチガチに固まりながらも紅茶を受け取ると、目を合わせては逸らすことを繰り返す。セオドアはそんなギュンターを見ながら、フィンが用意したクッキーに早速手をつけ可笑しそうに笑う。
「あはは、緊張しすぎだって。同じ学舎に通う生徒だろー?おれもギュンターくんって呼んじゃお」
ギュンターはもちろん目を見開いて動揺を隠せずにいた。
「あ、はい、好きに呼んでくださって結構デス」
ギュンターが未だ緊張が解けない様子だったため、ルイはやれやれと笑みを浮かべた。
「ギュンター。落ち着け」
「!……は、はい、すみません……」
ギュンターはルイの方を見ると、少し安心したように笑みを浮かべる。そして、ひと呼吸置いてから紅茶を手に取り、一口飲むと丁寧にカップをソーサーに置いた。
そして、意を決したように立ち上がり口を開く。
「……あの、みなさん。本当にごめんなさい!」
直接言えずにいた謝罪の言葉。
それをようやく口にすることが出来た安堵感と、同時に襲うのは緊張感。ギュンターは拳を握りしめながら俯く。
「え?」
「ほぇ?」
セオドアはクッキーを咀嚼しながら首を傾げ、フィンはドーナツを頬張りながら首を傾げる。
「どうしてギュンターくんが謝ってるんですか!?」
フィンは心底困った表情を浮かべる。
「そーそー。君は俺ら側っしょ?被害者被害者」
セオドアはケタケタと笑う。
ギュンターが目を丸くし戸惑っていると、ルイは頭を掻きながら口を開いた。
「おい」
ルイはため息を吐いて続ける。
「あのな、お前に謝ってもらうためにコイツらを呼んだわけじゃないんだぞ」
ギュンターは恐る恐るルイの方を見る。
ルイはこれまでのギュンターの頑張りを確認するように、手元にある問題集を眺めていた。
「自分で言うのもなんだが、オレらは成績が良い。ただ、応用側になると得意不得意があるからな。お前は……基礎は悪くない。あとは応用の力をつければ、留年は回避できるかと思う」
「そ、それはつまり」
狼狽えるギュンターに、ルイは得意気に笑みを浮かべた。
「それぞれの得意分野は任せろってことだ。冬の期末、絶対に合格しろ」
「!!」
ギュンターは目を見開く。ルイはそのまま続けた。
「まず、オレは攻撃魔法全般はできる。属性で言えば火と地が得意だ。あとはそうだな、魔法体術も得意だ。座学は基本なんでも。強いて言うなら召喚系は得意ではない。フィン、お前は?」
フィンは慌ててドーナツを飲み込んで紅茶を一気に飲むと、満面の笑みを浮かべる。
「えっと、僕は座学は全般大好きだよ!特に歴史系は大好き。あと、召喚術の理論はすごく自信があるかも……!僕貴族じゃないから、魔力が少なくて瞬間的に繰り出すような攻撃魔法は難しいけど、防御魔法なら得意かな。セオくんは?」
セオドアは急いで白衣に着替えると、ふふんと笑みを浮かべる。
「ご存じのとーり薬学が大得意!入学したての時は薬学以外はパッとしなかったけど、ルイとフィンちゃんのおかげで他の教科も結構イイ感じに成績上がったよ。変身魔法と身体能力を上げる魔法が得意で、よく自分で薬学と組み合わせた魔法も使ったりする。あとはそうだなー、錬成魔法系も自信あるなぁー。で、召喚はあんまし。というか苦手」
一通りの紹介が終わったところで、ギュンターはなおも狼狽えたままだ。
「あと1ヶ月弱。期末までにオレらがみっちり稽古をつけてやる。覚悟しておけ」
ルイの申し出に、ギュンターは目を潤ませた。
644
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜
たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話
騎士団長とのじれったい不器用BL
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結 一気読み推奨】片想いの相手が「そろそろ恋愛したい」と言ったので、用済みの俺はニートになることにしました。
はぴねこ
BL
高校生の頃、片想いの親友に告白した。
彼はノンケだったから玉砕して友人関係も終わるものだと思っていた。
もしかすると気持ち悪いと軽蔑される覚悟までしていたのに、彼は「今は恋愛をしている時間がないんだ」と自分の夢を語ってくれた。
彼は会社を興した祖父のことをとても尊敬していて、自分も起業したいと熱く語ってくれた。
そして、俺の手を握って「できれば親友のお前には俺の右腕になってほしい」と言われた。
同性愛者の俺のことを気持ち悪いと遠ざけることもせずに、親友のままでいてくれた彼に俺は感謝して、同じ大学に進学して、大学の頃に彼と一緒にゲームを作成する会社を起業した。
あれから二十年間、本当に二人三脚で駆け抜けてきた。
そして、昨年売り出したVRMMOが世界的に大ヒットし、ゲーム大賞を取ったことを祝うパーティーで親友が語った言葉に俺の覚悟も決まった。
「俺もそろそろ恋愛したい」
親友のその言葉に、俺は、長年の片想いを終わらせる覚悟をした。
不憫な拗らせアラフォーが”愛”へと踏み出すお話です。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる