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一年生・冬の章/番外編
お楽しみキャンディ“若返り味”⑦
しおりを挟む「(少しではない。この少年の頭の良さは本物だ。興味深いからもう少し深掘りしたいところだが……)」
リヒトは、自分の存在を確かめるように紅茶に映る自身を眺めた。そういえば、自分が25歳の状態から若返っているという状況であれば、この状態はいつまで続くのだろうと訝しげに表情を曇らせる。
「私はいつになったら元に戻る予定なんだ」
リヒトの問いかけに、フィンは思い出したかのように慌て始めた。
「あっあれ、そういえばもう1時間以上もこの状態……?」
長くても数十分程度の効果かと思いきや、未だ少年時代のリヒト状態が続いている。あっさりと煙が出て元に戻ると思っていたフィンは、思わぬ状況に混乱状態に陥った。
「このまま元に戻らなかったら、一体如何する」
「え!?えっと……」
フィンは一人慌てふためくが、リヒトは冷静な表情で紅茶のカップをソーサーに置く。
「うーん、前もキャンディで一日中体が入れ替わったこともあるから、いずれは戻ると思うんだけど」
「(入れ替わる味?そんな代物があっていいのか)」
「よし!ここは前向きに、16歳のリヒトとお話しできる機会なんてないし、気長に待ってみようかなーなんて」
フィンは朗らかな笑みを浮かべ、楽しそうにリヒトを見つめる。その嘘のない真っ直ぐな視線を、リヒトはまたしても直視できずに目を逸らした。自分でも顔が火照っているのが分かる。みっともないと思う反面、恋の到来で掻き乱される感情が、自分の存在を肯定してくれるようだった。
「呑気だな。このままじゃ、困るのはお前だと思うが」
リヒトは必死に恋心を抑え込みながら、フィンから目を逸らし提議する。
フィンは、リヒトの伏せがちの瞳と、銀色の長いまつ毛、そして整った鼻筋が美しく、形の良い唇につい目がいってしまう。16歳とは思えないリヒトの美しさに、フィンは変に意識をしてしまい顔を赤らめた。見慣れている顔のはずでも、見たことがない反応をされるとなんだか別人のように思えてしまうのだ。
「聞いているのか」
フィンはぼーっとリヒトを見ていたが、声をかけられるとハッと我に返り立ち上がる。
「ごっごめんね!?とりあえず、一緒にお話でもしよう……?」
食事を終えた二人は、話をするために普段二人でゆったりと過ごしている暖炉のある部屋に入った。二人が入ると自動的に暖炉の火が灯り、部屋にあるキャンドルの炎が一斉に点火する。
「こっちに座って?」
フィンは先にソファに座ると、その横をポンポンと軽く叩いてリヒトに呼びかけた。リヒトは促されるまま遠慮がちに横に座る。二人は少し空間があったため、フィンはその距離を詰めてリヒトに笑いかけた。
それからというもの、フィンは自分自身を知ってもらおうとたくさんの会話をした。リヒトの興味がある様子で話をきき、時々返事をしたり質問をする。気付けば1時間以上は経過していた。リヒトは時計を確認すると、再び眉を顰める。
「こんな悠長にしていていいのか」
「んー?どうしてそう思うの?」
やけに時間を気にするリヒトに、チョコレートを食べていたフィンは首を傾げた。
「それは……」
リヒトは少し言葉に詰まった後、観念したように口を開く。
「お前が好きなのは……未来の私だろう。このままこれが続けば、困るのはお前だと言ってるんだ」
淡々と言ってのけるリヒトだが、その声色には若干の切なさが含まれていた。フィンが好きなのは25歳の自分であって、今の自分ではない。勝手にそう考えたリヒトは、フィンのそばにいることが辛くなり、まるで失恋したかのような胸の痛さを感じた。
リヒトはソファから立ち上がると、フィンを見下ろす。
「無理して私に付き合う必要はないぞ」
リヒトはそう言って部屋を出ようとした。
「!?」
フィンは、ガバッと立ち上がりリヒトの方へ駆け寄ると、そのまま回り込んで通せんぼをした。
「待ってよ!僕にとっては今のリヒトだってリヒトなんだよ?」
フィンがそう諭すと、リヒトは目を背けしばらく無言になったあと、小さく口を開く。
「……辛いんだ」
リヒトの絞り出した言葉に、フィンは胸を痛めた。
「え……?」
「正直、お前といると心地良い。お前が恋人だということ、信じざるを得ないぐらいにな。だからこそ、時々感情がぐちゃぐちゃになって、苦しくなる。……上手く説明できない」
リヒトはそう言って俯くと、やがてゆっくりとフィンを見つめた。澄んだ碧の瞳が、フィンを捉える。目の前にいる恋人は、自分のモノではなく、未来の自分のモノ。今の自分には一生手に入らない、尊い存在。
「……このままずっと一緒にいれたらと思っているのに、きっと俺は、この時間を忘れて大人に戻るのだろう」
「リヒト……」
フィンはリヒトの一人称が俺に変わっている事に気づき、気を許し始めたことを悟った。それと同時に、フィンに対する気持ちが一気に大きくなっていたることも感じる。
リヒトはそのままフィンに詰め寄り、やがて壁に追いやると、勢いよく両手を壁につけフィンの耳元まで顔を近づけた。
「お前のことを知れば知るほど、苦しい。だが、愛おしいのも確かだ。どうしたらいいか、分からない」
リヒトは、複雑な感情を吐露する。
その囁き声が、フィンの脳を揺さぶった。
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