十年越しの恋心、叶えたのは毒でした。

碓氷雅

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結ばれた縁

#18

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 現場の遺留品の中に犯人を示す決定的な証拠があったらしい。それは明日の朝いちばんに来る専門家によって明らかになるって聞いたぞ。

 そんな噂が出回り始めた。鑑識課には何の連絡も入ってきていないが、刑事部ではその話で持ち切りというものだから、事実なのだろう。持てるすべての知識と経験を使って証拠はすべて消し去ったはずだというのに。焦る気持ちが抑えられず息は苦しくなっていく。

 警察署の明かりが消えることはないが、鑑識課の、それも遺留物保管庫は使わなければ明かりはなく、暗いままだ。焦りを何とか隠しながら、鑑識課への廊下を歩く。隠滅するなら今日、やらねばならない。

 せっかく柊和也に自首もどきをさせて、そのまま逮捕まで行けばよかったものの、今では柊の居場所すらわからない。気にはなるが、証拠を消す方が先だ。

 鑑識課の扉までくるとさすがに暗く、無意識にスイッチに伸びた手を止める。習慣とは恐ろしいなと思いながら、奥の部屋に入った。

 つい一時間前に棚に入れたばかりのプラスチックのコンテナを引き出す。腰に掛けている小さな懐中電灯を点けて口にくわえ、箱を開ける。保存袋に入れられた遺留物たちが照らしだされた。

 いったい、どれが決定的な証拠なのだろう。詳しく話を聞いて来ればよかったと、今更ながらに後悔した。ガサゴソと決して少なくはない遺留物をかき分ける。
髪の毛一本落とさず、手袋とマスクでDNAも残さず、服も途中で買ったものを着ていった。その服も硫酸で溶かし、もう形はない。何が、何が残っていたというのだ。
見つからないことが余計に焦らせる。影を持つ物たちがこちらを嘲笑っているかのようにさえ思えた。早く、見つけなければ。見つけて、消し去らねば。

ん? 消す?

 土壇場で思いついた方法に、心から救われた気がしてニヤリと口角を上げる。そうだ、消し去るなら、すべて燃やしてしまえばいい。なぜこんな単純なことを思いつかなかったのか。
そうと決まればやることはひとつ。辺りを見回し、よく燃える素材を探した。棚の上のファイリングされた資料に手を伸ばす。同時に胸ポケットのライターに手をかけた――その時。

「動くなっ!」

 突然部屋の照明がつき、咄嗟に手の甲で目を覆う。心臓は耳のすぐそばにあるのではないかというほどにバクバクと拍を打ち、手はどうしようもなく震えた。

「遅いよ、もう。何時間待ったと思ってんの!」
「綾木、そんなに待ってないだろうが。たかだか三時間だ」
「それ、たかだかをつけちゃいけない長さですよ? …ねえ? パートナーを売った人でなしの、榎本さん?」
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