神は気まぐれ

碓氷雅

文字の大きさ
上 下
1 / 17

婚約破棄を宣言する!

しおりを挟む
 神は気まぐれ。その恩恵に感謝こそすれ、期待することなかれ。

 大海に囲まれたとある孤島の王国、シーリアンテ王国の童話には必ずその一文が書かれている。それはこの国の成り立ちに関する神話によるものだった。

「アンナ・デヴォアルテ! 貴様はいくつ罪を重ねれば気が済むのだ!」

 卒業生の夜会、国中の貴族が集まるダンスパーティーで男の声が高々に響いた。ダンス曲の合間に流れていた演奏も止まる。参加した貴族の全ての視線が中央に集まり、それを感じてか、男は鼻の穴を膨らませてまたも叫んだ。

「王太子である俺、ヴィシャール・シーリアンテはこの場を持ってアンナ・デヴォアルテとの婚約を破棄する! この女は女神を偽称するばかりか、俺の癒しの人であるネリアンを様々に傷つけた。その罪は枚挙にいとまがない! よって国母としての素質がないと判断し、婚約破棄をここに宣言する!!」

 ヴィシャールは片手に女の腰を抱き、もう片方の手で目の前のアンナを指差す。その風景はまさに神話の予言のそれであったが、その場の誰も気づかなかった。

 国が出来て数百年、もはや神話はあるはずのない寓話として語り継がれていたからだ。

 唯一アンナだけが短くため息をつき、とうとうこの時が来たかと目を閉じた。
しおりを挟む

処理中です...