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8.よくやったわ
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お父様の行動は早かった。部屋を出るなり側近のキールに退職と後継の手続きを任せ、私たちは屋敷に帰った。お母様が手配していたようで旅行、もとい出国の準備は完了していた。
「リリー。今までよく頑張りましたね。あなたはよくやったわ」
「お母様…」
「アーシャの言うとおりだ。よくやったな」
「お父様…。私が至らないばかりに…、殿下を傀儡にできなくてごめんなさい」
お母様は私を優しく抱きしめて、お父様は私の頭を撫でてくれた。どこまでも暖かかった。
「なに、あの男の使い道はまだある。まずはストラテ王国に行こう。お前には申し訳ないが、な」
「婚約のことですか?」
「嫌ならしなくていいのよ。あなたはもう少し自分に優しくなるべきだわ」
ストラテ王国の交渉はその根本に、若き王のわがままがあった。ストラテ王国をデクリート帝国の脅威になるまでに成長させたのは、ひとえにストラテ王国国王の手腕によるものだが、その王が生まれて初めて言ったわがままが、私との結婚だったらしい。なんでも、去年のハルバラ誕生祭で一目惚れしたとか。
「心配しないで。嫌ではないの。せっかく帝王学やら経済学やらを学べたのだから、それを活かせる場所を向こうから提供してくれるなんて、願ったり叶ったりだと思うの」
「まあ。…リリー、あなた標的を向こうの陛下に変えただけではなくて?」
「…」
ごまかすように笑った。仕方のない子ね、とお母様も笑い、お父様は複雑な表情をしていた。その狼の耳も力なく垂れている。
「今夜のうちに出発しておこう。元老院の連中は難癖付けて足止めしかねない」
「そうね。…アル! 準備は出来た?」
「はい」
メイドのアルシャーはにっこり笑って言った。
「すべて指示通りにできております。すぐに向かわれますか?」
「ええ。使用人にはすべて伝えてあるわね? すぐに出発するわ」
親戚である皇室が腐敗したことで見切りをつけたお父様と、元々この国の生まれではないお母様、そしてその娘の私はこの国に未練などない。けれど使用人は別だ。信頼し、心から使えてくれていた人たちばかりとは言え、この国に生まれ、家族もいる。今日付けで解雇になる為、数か月は生活に困らないだけの金貨は与えてある。アルシャーを除いて皆、涙にぬれながら私たちを静かに送り出してくれた。
アルシャーは家族がいるにもかかわらず、同行を望んだ。彼女曰く、「小さいころからお仕えしたお嬢様についていきたい」ということらしかった。その裏の願望に気づけない私ではない。
馬車は二台用意してあった。前を行く馬車にはお父様とお母様が、後続に私とアルシャーが乗っている。必要なものは向こうがそろえてくれるらしく、荷物はそう多くない。
「アル。あなた、味をしめたわね?」
「リリー。今までよく頑張りましたね。あなたはよくやったわ」
「お母様…」
「アーシャの言うとおりだ。よくやったな」
「お父様…。私が至らないばかりに…、殿下を傀儡にできなくてごめんなさい」
お母様は私を優しく抱きしめて、お父様は私の頭を撫でてくれた。どこまでも暖かかった。
「なに、あの男の使い道はまだある。まずはストラテ王国に行こう。お前には申し訳ないが、な」
「婚約のことですか?」
「嫌ならしなくていいのよ。あなたはもう少し自分に優しくなるべきだわ」
ストラテ王国の交渉はその根本に、若き王のわがままがあった。ストラテ王国をデクリート帝国の脅威になるまでに成長させたのは、ひとえにストラテ王国国王の手腕によるものだが、その王が生まれて初めて言ったわがままが、私との結婚だったらしい。なんでも、去年のハルバラ誕生祭で一目惚れしたとか。
「心配しないで。嫌ではないの。せっかく帝王学やら経済学やらを学べたのだから、それを活かせる場所を向こうから提供してくれるなんて、願ったり叶ったりだと思うの」
「まあ。…リリー、あなた標的を向こうの陛下に変えただけではなくて?」
「…」
ごまかすように笑った。仕方のない子ね、とお母様も笑い、お父様は複雑な表情をしていた。その狼の耳も力なく垂れている。
「今夜のうちに出発しておこう。元老院の連中は難癖付けて足止めしかねない」
「そうね。…アル! 準備は出来た?」
「はい」
メイドのアルシャーはにっこり笑って言った。
「すべて指示通りにできております。すぐに向かわれますか?」
「ええ。使用人にはすべて伝えてあるわね? すぐに出発するわ」
親戚である皇室が腐敗したことで見切りをつけたお父様と、元々この国の生まれではないお母様、そしてその娘の私はこの国に未練などない。けれど使用人は別だ。信頼し、心から使えてくれていた人たちばかりとは言え、この国に生まれ、家族もいる。今日付けで解雇になる為、数か月は生活に困らないだけの金貨は与えてある。アルシャーを除いて皆、涙にぬれながら私たちを静かに送り出してくれた。
アルシャーは家族がいるにもかかわらず、同行を望んだ。彼女曰く、「小さいころからお仕えしたお嬢様についていきたい」ということらしかった。その裏の願望に気づけない私ではない。
馬車は二台用意してあった。前を行く馬車にはお父様とお母様が、後続に私とアルシャーが乗っている。必要なものは向こうがそろえてくれるらしく、荷物はそう多くない。
「アル。あなた、味をしめたわね?」
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