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7.皇太子に擁立なされました
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「なんだと? お前が断れるわけがないだろうが。俺は皇太子だぞ」
「殿下は既に皇太子ではございませんわ」
「なにをバカなことを。俺以外に誰が皇帝に…、まさか」
「ええ、もともとわたくしが皇妃として皇務をこなすことが殿下が皇太子たる条件でしたので、兄君のマキシマム殿下が皇太子となられます」
「だ、だからお前が婚約者に戻ればいい、そうだろ?」
お父様が間にいてくれるおかげで、ルークが迫ってくることはないが、血走った目をした彼が何をしてくるかもわからない。言いたいことは言ったし、あとは書類を作成して皇室に送ればいいだけだ。早々に立ち去りたい。
「今までのことを特別に許してやる。だから…」
「もうやめんか」
だんまりだった皇帝は、大きくため息をついた。
「何度も説明してやったのに、正しく受け取らなかったお前が悪い。せっかく頼み込んでやったというのに…」
「え…?」
皇后と皇帝は馬が合わない夫婦と誰もが噂した。趣向や性格が合わないばかりか、皇帝は重度の女好きで婚外子は十人を超える。見かねた元老院は第二皇妃に当時のお気に入りを据えることで皇帝の淫行を止めたのだ。その第二皇妃から生まれたのがルークであり、五年も先に生まれた第一皇子の方が何においても優れていたが、マキシマム殿下が皇后の息子であるというだけで皇帝が大反対した。その結果、皇位継承権第二位となっていた。
こんこん、とドアが鳴る。皇帝の許可で執事が入ってきた。元老院直属の執事で、皇室において伝達係を担っている。
「陛下。報告いたします。マキシマム皇子殿下が皇太子に擁立なされました」
「はぁ…、仕事が早いな」
「つきましてはルーク皇子殿下の臣籍降下についてお話がありますので、いらっしゃいますようお願い申し上げます」
「…分かった。向かおう」
「こちらです」
「ま、待ってください! 父上!」
出ていこうとする皇帝の背中にすがるように、ルークは言った。
「臣籍降下? 私は皇太子ですよね?!」
「お前に言うことはもうない。せめておとなしく沙汰を待て」
「そんな、父上!」
ルークからしてみれば、無情にも扉は閉まった。途端、糸の切れたマリオネットのように頽れたルークを横に、ポロネフ準男爵令嬢が駆け寄る。
「ルーク様ぁ。早くここを出ましょう? わたくし、難しい話はもう嫌ですの。ね? ルーク様もお疲れでしょう? 今日はお好きなもの、何でもおつくりしますからぁ」
正直、ポロネフ準男爵令嬢のその態度に、私は心底驚いていた。出世が為、ルークの地位に惚れて恋人ごっこをしていたと思っていたからだ。執事の話を聞いていれば、気持ちは冷めるものだろうに。
「うるさい。もう放っておいてくれ」
添えられた手を払いのけて、ルークは何とか立ち、私を睨みつけた。
「お前のせいだ…。お前のせいで俺は…」
「わたくしはこれで失礼いたしますわ。後日、慰謝料請求の書類を元老院宛に届けさせます。しっかり払ってくださいましね。それでは、ごきげんよう」
これ以上茶番を続けたくはなかった。お母様もお父様も、これ以上の話し合いなど無意味だと言っているようで、視線が痛かった。ルークは私が部屋を出るまで、まるで呪詛のように「お前のせいだ…」と繰り返していた。
「殿下は既に皇太子ではございませんわ」
「なにをバカなことを。俺以外に誰が皇帝に…、まさか」
「ええ、もともとわたくしが皇妃として皇務をこなすことが殿下が皇太子たる条件でしたので、兄君のマキシマム殿下が皇太子となられます」
「だ、だからお前が婚約者に戻ればいい、そうだろ?」
お父様が間にいてくれるおかげで、ルークが迫ってくることはないが、血走った目をした彼が何をしてくるかもわからない。言いたいことは言ったし、あとは書類を作成して皇室に送ればいいだけだ。早々に立ち去りたい。
「今までのことを特別に許してやる。だから…」
「もうやめんか」
だんまりだった皇帝は、大きくため息をついた。
「何度も説明してやったのに、正しく受け取らなかったお前が悪い。せっかく頼み込んでやったというのに…」
「え…?」
皇后と皇帝は馬が合わない夫婦と誰もが噂した。趣向や性格が合わないばかりか、皇帝は重度の女好きで婚外子は十人を超える。見かねた元老院は第二皇妃に当時のお気に入りを据えることで皇帝の淫行を止めたのだ。その第二皇妃から生まれたのがルークであり、五年も先に生まれた第一皇子の方が何においても優れていたが、マキシマム殿下が皇后の息子であるというだけで皇帝が大反対した。その結果、皇位継承権第二位となっていた。
こんこん、とドアが鳴る。皇帝の許可で執事が入ってきた。元老院直属の執事で、皇室において伝達係を担っている。
「陛下。報告いたします。マキシマム皇子殿下が皇太子に擁立なされました」
「はぁ…、仕事が早いな」
「つきましてはルーク皇子殿下の臣籍降下についてお話がありますので、いらっしゃいますようお願い申し上げます」
「…分かった。向かおう」
「こちらです」
「ま、待ってください! 父上!」
出ていこうとする皇帝の背中にすがるように、ルークは言った。
「臣籍降下? 私は皇太子ですよね?!」
「お前に言うことはもうない。せめておとなしく沙汰を待て」
「そんな、父上!」
ルークからしてみれば、無情にも扉は閉まった。途端、糸の切れたマリオネットのように頽れたルークを横に、ポロネフ準男爵令嬢が駆け寄る。
「ルーク様ぁ。早くここを出ましょう? わたくし、難しい話はもう嫌ですの。ね? ルーク様もお疲れでしょう? 今日はお好きなもの、何でもおつくりしますからぁ」
正直、ポロネフ準男爵令嬢のその態度に、私は心底驚いていた。出世が為、ルークの地位に惚れて恋人ごっこをしていたと思っていたからだ。執事の話を聞いていれば、気持ちは冷めるものだろうに。
「うるさい。もう放っておいてくれ」
添えられた手を払いのけて、ルークは何とか立ち、私を睨みつけた。
「お前のせいだ…。お前のせいで俺は…」
「わたくしはこれで失礼いたしますわ。後日、慰謝料請求の書類を元老院宛に届けさせます。しっかり払ってくださいましね。それでは、ごきげんよう」
これ以上茶番を続けたくはなかった。お母様もお父様も、これ以上の話し合いなど無意味だと言っているようで、視線が痛かった。ルークは私が部屋を出るまで、まるで呪詛のように「お前のせいだ…」と繰り返していた。
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