婚約破棄? あなたごときにできると思って?

碓氷雅

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11.その命、僕に預けてもらおうか

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 時間は少し遡って、ルークの軟禁が始まったばかりの頃。デクリート帝国の国境近くの街、ストラテ王国リアンにて。

「やあ、よく来てくれたね。リリー嬢」

 国王の使いの人に案内された部屋には、国王とは思えないほどラフな格好の風格ある男と、それとは対照的に格式を感じさせる立ち姿の男がいた。使いの人が言うには、ラフな方が国王、レオナルド・ストラテで、もう一人がこの国の大宰相ノア・テイラー、らしい。なんともいびつな風景だ。

「もう向こうの公爵ではないのだから、新しく家名をつくらなければだね。何か希望があるなら明日の夕方までにノアに言っておいてくれ」

 気に食わない。第一印象は最悪だった。

「お気遣い、痛み入ります」

「うん。 ノア、公爵殿と夫人にこれからのこと、説明して差し上げて」

「承知いたしました。お二方とも、こちらへ」

 当然のごとく私もついていこうとしたが、レオナルドに止められた。予想できたことではあるし、もしかしたらとは思ってはいたが、実際に言われると嫌悪が顔に現れていないか心配になった。

「リリー嬢、君は残ってね」

 静かに扉は閉まり、二人きりの空間にはなんとも居心地の悪い雰囲気が漂う。

「確認するね。ここに来てくれたってことは僕との婚約を受け入れてくれたってことだよね?」

「はい、さようでございます」

「そっか、よかった。ありがとう」

「お礼を言うべきはわたくし共の方です。…わたくしもひとつお聞きしてもよろしいでしょうか?」

「なんだい?」

「こちらは傷物令嬢を陛下の婚約者にしていただき、公爵の地位もいただきました。その対価として、私兵、スパイ、暗殺者をはじめとする軍事力を提供することとなっておりますが、こちらの提供する物の方が比重が軽すぎる気がするのですが、よろしいのですか?」

「軽すぎる、か。もとは僕が君を王妃にって駄々をこねただけだからね。どうしてもっていうなら、ひとつ仕事をお願いしようかな」

「わたくしにできることなら何なりと」

「うん、いい返事だ」

 昼間の強い日差しが急になくなり、窓の外は暗くなった。雨が降り始め、雷が聞こえる。この地域では一年中、スコールなるものがあるらしい。予想できない雨がたびたび降るのだとか。
 部屋の中も少々薄暗くなり、心なしかレオナルドの顔が暗くなったように思えた。

「その命、僕に預けてもらおうか」

「…はい?」

「うん、やっぱりいい返事だ」

 にっこりと笑うレオナルドを見、先ほどのは思い過ごしに感じる。

「いえ、そのはいではなくてですね、あの、きちんと説明いただけますよね?」

「これ以上何の説明が必要なんだ?」

「何のために…いえ、何の必要に駆られて私の命を陛下のものにせねばならないのですか?」

「嫌?」

「いえ、そうではなくてですね…」

「じきににわかるよ。それに、僕は『預かる』だけだ。『奪う』わけじゃない。そこは分かっていてくれ」

「はあ…」

 レオナルドは上品に口角をあげて、不気味にそれでいて魅力を感じる笑みを見せた。

「戦争が、始まるね」
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