婚約破棄? あなたごときにできると思って?

碓氷雅

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16.よく似合ってるよ

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 そのパーティーにはデクリート帝国からも祝使が来ていた。他国との差別化を図る目的で使節団の礼服をデザインしたことがある。一見して奇抜で、しかし統一感のとれた美しい礼服を、とルークに言われたのだ。会議で珍しく発言したはいいものの、無責任すぎるものだったがゆえにしりぬぐいが私に回ってきたのだった。

 その服に身を包んだ使節団の中に、見覚えのある顔がいて目を疑った。

「この度はご婚約、おめでとうございます」

 レオナルドの高らかな婚約宣言が終わった直後、彼は誰よりも早く挨拶に来た。白を基調とした礼服を着た、新たにデクリート帝国の皇太子となったはずのマキシマムが。

「ありがとう。まさか直々に来るなんて思ってもいなかったよ。私のラブレター、気に入ってくれたのかな?」

「ご冗談を」

 面識のなかったはずのふたりは、旧知の友のように話す。

「愚弟は明後日の到着予定でございますれば、数日の滞在の許可をいただきたく」

「ああ、わかったよ。…ただ、それには条件がある」

「…何なりと」

 マキシマムの眉間にしわが寄ったのを見逃さなかった。ポーカーフェイスが下手なのは親子そろって同じなのかと可笑しかった。

「この場から、僕と君との間には上下はない。いかなる情勢になろうとも。ゆえに、かしこまった言い方はいいが敬語はなしだ。よろしいかな?」

 満足げに笑うレオナルドとは対照的に、マキシマムは目を丸くして、しかしすぐにくしゃっと笑った。

「ええ、いいでしょう…」

 すっとだされた右手を、レオナルドは力強く握った。

 丸く収まったからいいものの、大宰相の心中は穏やかじゃないだろうなと気の毒に思う。レオナルドとマキシマムの握手は両国の対等な国交、あるいはストラテ王国が若干の優勢での国交を意味し、その場にいる全員の印象に残ったに違いない。

 さっきから会場の隅のほうで、ちらちらと視線を感じる。深く息を吸って、気持ちを落ち着かせた。

「陛下。少々この場を辞さしていただきたく思います。よろしいでしょうか?」

「ああ。会場からは出ないようにね。…あ、それと」

「はい?」

 傍仕えに持ってこさせたチョーカーを手ずから着けてくれた。大きなアメシストを中心として、大小さまざまにダイヤモンドが埋め込まれている。少し重たくて、けれどドレスとの調和がとれていて『婚約者』からの初めての贈り物に気持ちが高まった。

「君の髪の色と一緒だ。…よく似合ってるよ」

「あ、ありがとうございます」

 ばくばくと高鳴る鼓動を胸に抱えて、私はその場を後にした。
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