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17.素敵ね
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「ごきげんよう、リリー様。ご婚約おめでとうございます」
近づく私に、さも今気づいたというように早足で駆け寄ってきた令嬢は、うやうやしく頭を下げた。彼女は淡い緑を基調に、袖や裾に近づくほどに薄くなるグラデーションのドレスに身を包み、そのシースルーの胸元には私のチョーカーと対になるくらい大きなエメラルドが輝いていた。
宝石はその大きさが貴重さを語る。大きければ大きいほどに高価で、その家門の経済的余裕を誇れるのだ。
自信満々な笑みを見せる彼女とは対照的に、彼女の後ろに立つ令嬢らは、目を合わせようともせず、虎の威を借りる狐も同然のように思えた。
「ありがとう。…あなたのエメラルド、素敵ね」
「まあ、嬉しいですわ。お父様があたくしのためにエステル地方の希少なものを手に入れてくださいましたの。申し遅れました、あたくしメアリー・リナードと申します」
「リナード小子爵様ですわ」
メアリーの肩から顔を出した令嬢がこそりと言った。
「小子爵? 兄弟はいらっしゃらなくて?」
小子爵と名乗れるのはその家の跡継ぎだけである。
「兄と弟が一人ずつおりますわ。ストラテ王国では長子でなくても女子であっても能力があれば家門を継ぐことができるのですよ。…まあ、帝国から来られたリリー様には、理解しがたいことかもしれませんけれど」
メアリーは装飾豪華な扇子を音もなく広げ、弧を描く口元を隠した。後ろの令嬢らもそろって醜く笑う。
「そうですね。貿易で栄えた新興王国ならば、伝統など無縁でしょう。けれど、それと礼儀は違うのではなくて?」
礼儀がない方との会話はとても不愉快だ、と。言外に匂わせ、私は目を細めて睨んだ。思ったほどうろたえた様子はなかった。
「当然ですわね。そういえば、リリー様には何か得意なものがございまして? あたくしのサロンで度々講義を開いておりますの。よろしければリリー様にもご教授いただきたいですわ」
「講義…? 刺繍などではありませんの?」
「まあ!」
メアリーは背後の令嬢らと顔を合わせて笑った。会場中に響くような声で笑いあい、一気に注目を集めた。
「刺繡ですってよ!」
「リリー様は帝国の女性の鏡と伺っておりましたが、ずいぶん遅れてらっしゃるのね」
「刺繍よりも投資・経営の話の方が興味深いわよねぇ」
「ええ! わたくし、帝国の女性は帝王学を学ばないと聞きましてよ。かわいそうですわ」
ピンクの袖のないドレスを着た令嬢の言った言葉に違和感を覚えた。そもそも帝王学は人の上にいることが将来的にわかっている立場の者が、その素質を磨くために学ぶことそのものだ。それをただの令嬢が学ぶなど、無意味に等しい。
逆に学んだことが事実だとして、それを声高らかに言うということは、国家反逆を企んでいると思われても仕方ない。現に、こちらを眺めるパーティーの参加者はひどく冷めたまなざしをしている。
これは…。既視感が強すぎる。あの男だけは現れてくれるなよと、私は強く願った。
近づく私に、さも今気づいたというように早足で駆け寄ってきた令嬢は、うやうやしく頭を下げた。彼女は淡い緑を基調に、袖や裾に近づくほどに薄くなるグラデーションのドレスに身を包み、そのシースルーの胸元には私のチョーカーと対になるくらい大きなエメラルドが輝いていた。
宝石はその大きさが貴重さを語る。大きければ大きいほどに高価で、その家門の経済的余裕を誇れるのだ。
自信満々な笑みを見せる彼女とは対照的に、彼女の後ろに立つ令嬢らは、目を合わせようともせず、虎の威を借りる狐も同然のように思えた。
「ありがとう。…あなたのエメラルド、素敵ね」
「まあ、嬉しいですわ。お父様があたくしのためにエステル地方の希少なものを手に入れてくださいましたの。申し遅れました、あたくしメアリー・リナードと申します」
「リナード小子爵様ですわ」
メアリーの肩から顔を出した令嬢がこそりと言った。
「小子爵? 兄弟はいらっしゃらなくて?」
小子爵と名乗れるのはその家の跡継ぎだけである。
「兄と弟が一人ずつおりますわ。ストラテ王国では長子でなくても女子であっても能力があれば家門を継ぐことができるのですよ。…まあ、帝国から来られたリリー様には、理解しがたいことかもしれませんけれど」
メアリーは装飾豪華な扇子を音もなく広げ、弧を描く口元を隠した。後ろの令嬢らもそろって醜く笑う。
「そうですね。貿易で栄えた新興王国ならば、伝統など無縁でしょう。けれど、それと礼儀は違うのではなくて?」
礼儀がない方との会話はとても不愉快だ、と。言外に匂わせ、私は目を細めて睨んだ。思ったほどうろたえた様子はなかった。
「当然ですわね。そういえば、リリー様には何か得意なものがございまして? あたくしのサロンで度々講義を開いておりますの。よろしければリリー様にもご教授いただきたいですわ」
「講義…? 刺繍などではありませんの?」
「まあ!」
メアリーは背後の令嬢らと顔を合わせて笑った。会場中に響くような声で笑いあい、一気に注目を集めた。
「刺繡ですってよ!」
「リリー様は帝国の女性の鏡と伺っておりましたが、ずいぶん遅れてらっしゃるのね」
「刺繍よりも投資・経営の話の方が興味深いわよねぇ」
「ええ! わたくし、帝国の女性は帝王学を学ばないと聞きましてよ。かわいそうですわ」
ピンクの袖のないドレスを着た令嬢の言った言葉に違和感を覚えた。そもそも帝王学は人の上にいることが将来的にわかっている立場の者が、その素質を磨くために学ぶことそのものだ。それをただの令嬢が学ぶなど、無意味に等しい。
逆に学んだことが事実だとして、それを声高らかに言うということは、国家反逆を企んでいると思われても仕方ない。現に、こちらを眺めるパーティーの参加者はひどく冷めたまなざしをしている。
これは…。既視感が強すぎる。あの男だけは現れてくれるなよと、私は強く願った。
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