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18.教えてくださいまし!
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「そこの…ピンクのドレスの方。少しよろしくて?」
「は、はい…。何でございましょう」
メアリーの背に隠れていた時と違い、おどおどした様子で彼女は答えた。
「あなたは受けてこられましたの? 帝王学を」
「ええ…、」
「ではあなたの教師を教えてくださいませんこと? 少々気になることもございまして」
「はい?」
令嬢はメアリーらと顔を見合わせ再び笑った。
「教師ですってよ! 本がございますのに教師がいないと理解できませんの?」
「リナード小侯爵様の言う通りですわ。リリー様、わたくし共に教師などおりません。それゆえ、サロンがございますの」
おそらくデクリート帝国の帝王学とストラテ王国のそれは、意味が異なるのだろう。気になって仕方ない。あとでレオナルドに教えてもらおうと頭の中のメモに書いた。
「そうですの。では、将棋やチェスなどいかが?」
「しょうぎ? ちぇす? なんですの、それは」
「リナード小侯爵様、わたくし聞いたことがございますわ。なんでも戦争のような野蛮なものだとか」
「まあ! それは本当ですの!?」
ピンクの令嬢は私が気に食わないらしい。いきなり現れた亡命令嬢が次期皇妃なのだからそれもそうだろうが、露骨すぎる。野蛮な遊びばかりをする令嬢だと印象付けたかったのだろうが、その意図に反して、メアリーの瞳はきらきらと期待に輝いていた。
「今度、あたくしのサロンにいらしてくださいな! もちろん『しょうぎ』と『チェス』、教えてくださいまし!」
「ええ、喜んで」
ストラテ王国の下級貴族は、資産は上級貴族と同じほどありながらも政治に関わることを敬遠し、ゆえに身分は低い。その筆頭がリナード家であり、次期子爵が令嬢たちのまとめ役になっているようだった。そのメアリーと仲良くしておくに越したことはない。
ピンクの彼女は下唇を噛み、小さく震ええていた。メアリーの眼中にもう彼女の姿はない。そんなメアリーの態度が私と似ていて好ましかった。
話に花を咲かせ、時間を忘れるほどに楽しい時間を過ごした。メアリーの背後の令嬢とも徐々に打ち解け、話は始終弾んだ。
「リリー様。陛下がお呼びでございます」
燕尾服のフットマンはその腰を少し折って耳元でささやいた。行かない理由もなく、挨拶もそこそこに私はその場を離れる。
「陛下はどこにいらっしゃいますの?」
「謁見室にございます」
「謁見室?」
おかしいと思った。
この会場から謁見室までは二つの広大な庭を横切らなければならない。普通に歩けば二十分近くかかるだろう。何より会場からは出るな、と言った本人が外に呼び出すだろうか。
前を迷いなく歩くフットマンも違和感を通り越して不気味だった。
「どうぞ、こちらへ」
会場の隅のカーテンを開ける。真っ暗な中に促されるまま足を踏み入れた。やはりおかしいと踵を返せば、フットマンにさえぎられる。
「リリー様、陛下がお呼びですので」
「嘘おっしゃい。陛下はわたくしに、っ!」
首の後ろに鈍い痛みが走る。視界は大きく揺れて、意識は恐ろしいほど簡単に私の手から離れていった。
「は、はい…。何でございましょう」
メアリーの背に隠れていた時と違い、おどおどした様子で彼女は答えた。
「あなたは受けてこられましたの? 帝王学を」
「ええ…、」
「ではあなたの教師を教えてくださいませんこと? 少々気になることもございまして」
「はい?」
令嬢はメアリーらと顔を見合わせ再び笑った。
「教師ですってよ! 本がございますのに教師がいないと理解できませんの?」
「リナード小侯爵様の言う通りですわ。リリー様、わたくし共に教師などおりません。それゆえ、サロンがございますの」
おそらくデクリート帝国の帝王学とストラテ王国のそれは、意味が異なるのだろう。気になって仕方ない。あとでレオナルドに教えてもらおうと頭の中のメモに書いた。
「そうですの。では、将棋やチェスなどいかが?」
「しょうぎ? ちぇす? なんですの、それは」
「リナード小侯爵様、わたくし聞いたことがございますわ。なんでも戦争のような野蛮なものだとか」
「まあ! それは本当ですの!?」
ピンクの令嬢は私が気に食わないらしい。いきなり現れた亡命令嬢が次期皇妃なのだからそれもそうだろうが、露骨すぎる。野蛮な遊びばかりをする令嬢だと印象付けたかったのだろうが、その意図に反して、メアリーの瞳はきらきらと期待に輝いていた。
「今度、あたくしのサロンにいらしてくださいな! もちろん『しょうぎ』と『チェス』、教えてくださいまし!」
「ええ、喜んで」
ストラテ王国の下級貴族は、資産は上級貴族と同じほどありながらも政治に関わることを敬遠し、ゆえに身分は低い。その筆頭がリナード家であり、次期子爵が令嬢たちのまとめ役になっているようだった。そのメアリーと仲良くしておくに越したことはない。
ピンクの彼女は下唇を噛み、小さく震ええていた。メアリーの眼中にもう彼女の姿はない。そんなメアリーの態度が私と似ていて好ましかった。
話に花を咲かせ、時間を忘れるほどに楽しい時間を過ごした。メアリーの背後の令嬢とも徐々に打ち解け、話は始終弾んだ。
「リリー様。陛下がお呼びでございます」
燕尾服のフットマンはその腰を少し折って耳元でささやいた。行かない理由もなく、挨拶もそこそこに私はその場を離れる。
「陛下はどこにいらっしゃいますの?」
「謁見室にございます」
「謁見室?」
おかしいと思った。
この会場から謁見室までは二つの広大な庭を横切らなければならない。普通に歩けば二十分近くかかるだろう。何より会場からは出るな、と言った本人が外に呼び出すだろうか。
前を迷いなく歩くフットマンも違和感を通り越して不気味だった。
「どうぞ、こちらへ」
会場の隅のカーテンを開ける。真っ暗な中に促されるまま足を踏み入れた。やはりおかしいと踵を返せば、フットマンにさえぎられる。
「リリー様、陛下がお呼びですので」
「嘘おっしゃい。陛下はわたくしに、っ!」
首の後ろに鈍い痛みが走る。視界は大きく揺れて、意識は恐ろしいほど簡単に私の手から離れていった。
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