はるよ こい。

たみやえる

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はるよ こい。

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 思わず「久しぶりっ」と近づいたアヤをカゲが眩しいものを見たように目を細めるから、なんだかもぞもぞ、へたくそにくすぐられている心地。
「えっと、すごく半透明」
と、アヤは一年振りのカゲを評する。
 だって、本当に彼の体を透かして後ろの薄汚れた壁のシミが見えたから。
 アヤの言葉にカゲは声を出さずに笑った。
 肩だけ揺れていたのがさざなみのように全身に広がり、彼自体がくわんくわんと空間を揺らした。
 その振動に負け、彼の欠けらが空に舞い、細かくほどけてあがってゆく。
 そのままバラバラと消えてしまうんじゃないかとアヤがハラハラ見ていると、宙に浮いた自分自身を、ぱっと開いた手で捕まえたカゲが困ったように眉を下げ、唇を結んでアヤを見た。
 今日のカゲは窓際の机の横に立ったままでいるから、アヤはいつもカゲが座っていた椅子に腰掛ける。カゲの方を向いて。
「まぁ。おかげさまでほぼ成仏できたんで」
 なるほど。成仏すると透明になるのか。
(悲しい)けれど、
「おめでとう」
と言えた。
「おー」
と答える声まで、心なし、薄い。
「……言い訳になるけど」
 ぼそぼそとカゲが話し始める。
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