はるよ こい。

たみやえる

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はるよ こい。

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「俺さ、桜庭のこと、信用できるセンセーだって信じてたんだ。教師の中でもわりかし年も近くて、話も面白くて、さ」
 まぁ、そうだろう。仲のいい先生を、はじめから(こいつ犯罪者じゃないか)と疑うなんてなかなかしない。
「クラスの、ある女子のこと、いろいろ教えてくれって頼まれて。彼女、母子家庭だから。心配だからって」
 話しているうちにカゲの顔が辛そうに歪んでくる。それを見てアヤの方まで苦しくなってきて(もういいよ)と言いたくなる。
 でも、きっと(これが最後……)という妙な確信があって、それがアヤにカゲの言葉を遮らせないでいる。
「けど、桜庭のやつは心配してたんじゃあなかった。俺、いいように使われていただけだって気づいた時は、もう……っ」
 両拳を握りしめてうつむくカゲの垂れた前髪の間からこぼれ落ちる雫が、アヤの膝に落ちた。
 見上げる。
 カゲの顔がよく見えない。
 アヤの目の問題じゃない。
 存在が消えかかっているから。
「だから呼び出して文句言った。もうやめろ、やめてくれって。校長にも警察にも言ってやるって。あいつがしたこと。全部」
(あぁ……)
「そこに長山が来てさ」
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