昼と夜の間の女

たみやえる

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 クリスマス寒波が到来したその日の仕事帰り、林はコンビニ横の公園を駅に向かって突っ切ろうと歩いていた。澄み切った空気が肺に刺さる。吹きさらしのベンチの横に自転車が置かれていた。通り過ぎようとして座っているのがコンビニの女だと気がついた。
 なぜ、こんな時間に? と思う。
「早く帰らなくて良いんですか。奥さん」
「あら、お客さん」
 ぼんやりと見上げてくる女の目に力がない。余程疲れているのだろう。林は体の奥から熱い塊が飛び出てくる錯覚に思わず彼女の隣に腰を落としていた。
「林です。林 颯人」
 コートのポケットにいつも忍ばせていた卵形のしゃれた容器を取り出した。自分の手のひらでトリートメントを温めてから女の手を取り丹念に塗り広げてやる。女はぼうっとして林のなすがままだった。特にがさがさと硬い指の先を両手で包む。ろくに会話すらしない客と店員の間柄のはずなのに、こんな風に触らせてくれる。嫌がられないことが嬉しくてうれしくてたまらない。林は自分の気が済むまで女の手に自分の体温を与え続けていると、
「はやと」
と女が発した。
 どきん、と鼓動が跳ね上がり、口から心臓が飛び出るかと思った。
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