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しおりを挟む数ヶ月後、空に登ってゆく煙を斎場の外からながめていると、後ろから声をかけられた。
膵臓がんだった。
もう、手術もできないほど悪化していた……。
「あー……もったいない。彼は死ぬ直前まで絵筆を握って、のちに人類の宝と言われる作品のうちのひとつを生み出すはずだったのに……」
「呆れた。あなた、いっつも私の後ろから声かけてくるわよね? 気持ち悪いんだけど」
「……すみません。習性なもので」
ふん、と鼻を鳴らした女に黒い男が言う。
「それにしても、邪魔をしないでほしいものです。せっかくのご褒美がいつも貴女にさらっていかれまう。志信さんは、死ぬ直前まで絵筆をとって、のちに人類の至宝と呼ばれる作品のうちのひとつを生み出すはずだったのですよ……」
「仕方ないじゃない。あつめているんだもの」
「貴女、人間でしょ。コレクションなら、カタチに残るモノにされたらいかがですか」
「そんなの普通。面白くない」
言い切る女に男が重たいため息をはぁ、とついた。
「私、不思議と煌めくひとに逢っちゃうの。そしたら、そのひとの持ち時間の最期のひと匙を舐めたいって思うじゃない?」
「確か、志信さんの前は、写真家の方でしたか……」
「よく、ご存じ」
「……いい加減にしないと、貴女の時間を終わらせますよ。私にはその権限があるのですから」
語気を強めた黒い男を振り返って、女はニコリとした。
「そんなことできるもんですか」
「いやいや、いや。私、本気ですが」
女がヒールの音を立て、男に近づく。額が男の胸にくっつくくらい近くに立つと、
「命を取るって言いたいんでしょう? でも、これまでだってできたのにアンタはそれをしなかった。だから、私がババアになって布団の中でこときれる瞬間まで、アンタはそれをしないでしょうよ。この.いくじなし」
ぺらりとした黒いネクタイを引っ張って、自分もつま先立ちになり唇を合わせた女に、黒い男は苦笑いで返した。
「やれやれ、とんだ毒婦だ。私までコレクションするつもりですか」
男の胸をトン、と突いて、どんどん歩いていった女は、道路脇に停めていた車のドアをあけ、一度振り向いた。
「……乗ってく?」
「死神とドライブして無事に済むと思われますか」
「知ーらーないっ」
それに爆笑した黒い男は、車に向かってゆっくりと歩き始めた。
〈了〉
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